「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」 画像提供 Apple TV+

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2023.10.20

この1本:「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」 重厚濃密、圧巻の俳優陣

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

米国の負の歴史に光を当てて世に問い、かつ人間ドラマとしてもめっぽう面白い。監督マーティン・スコセッシ、主演レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロ。ハリウッドの重鎮、大御所が顔をそろえ、米国映画の良心と底力を感じさせる大作である。
 1920年代、オクラホマ州にあった先住民オセージ族の居留地から石油が採掘され、オセージの人々に巨額の対価が支払われていた。親族に相続されるこの富を、白人支配者たちはあくどく搾取し、多くのオセージの人々が虐殺された。本作は、そうした中で起きた大量殺人事件の一つを描く。デイビッド・グランのノンフィクションが原作である。
 戦争帰還者のアーネスト(ディカプリオ)は、叔父のキング(デ・ニーロ)の元に身を寄せる。キングは地域の顔役としてオセージの信頼も得ていたが、その裏でオイルマネーを横取りする策略を巡らせていた。アーネストはオセージの女性モリー(リリー・グラッドストーン)と出会い、やがて結婚。家庭を築く一方で、モリーの一族の資産を横取りするため、キングの命じるままモリーの親族殺害に加担する。
 スコセッシ監督は、白人による先住民差別と搾取、非道な犯罪を許しがたい歴史の汚点としながらも、単純な善悪対比の構図に押し込めない。アーネストは仲間たちと犯罪をためらわず繰り返す一方で、モリーには愛情深く接する。表情を動かさないモリーは陰謀を知ってか知らでか、アーネストへの信頼を寄せ続ける。残忍なキングはオセージを「最も美しい人々」とたたえ、部族会議にも出席して犯人発見に協力を約束する。

3時間26分と長尺の映画で、画面からの圧がすさまじい。スコセッシ監督の語り口も映像も重厚濃密、そして俳優陣が圧巻だ。愛情と物欲のはざまで右往左往するアーネストを演じたディカプリオ、二面性を持つキングをサイコパスではなく造形したデ・ニーロ。2人の間で〝可哀そうな被害者〟にとどまらず、歴史の闇を体現したグラッドストーン。賞レースもにぎわせそうだ。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(勝)

ここに注目

ネーティブアメリカンには強制移住、居留地の歴史がつきまとう。オセージ族もしかり。そこに、アメリカ社会に根付く「富を生むルール」の蛮行を交錯させ、マイノリティーの財産を搾取する支配の構図を浮かび上がらせた。白人によるこうした事例は多々あるが、西部劇を除けば映画として世に問われる作品は少ない。その意味でも称賛されるべきだ。とりわけ、モリーの沈黙は圧巻。口に出さずとも言葉にした以上に心意を語り、オセージ族としての矜持(きょうじ)と家族への思い、アーネストへの愛と幸福への意志が視線とその強さに宿っていた。(鈴)

異論あり

この手の実録犯罪ものは、序盤のうちに事件が発生し、中盤の入り口あたりでFBIの捜査が始まるのが常。ところが本作はそうしたパターンを壊し、殺人シーンや捜査官登場のタイミングを大幅に後ろへ引き延ばした。そのためテンポは緩く、似たような場面の反復も見られ、鑑賞中に何度かじれったさを覚えた。その半面、白人による搾取の卑劣さや執拗(しつよう)さ、先住民の悲劇性が強調され、これはこれですさまじい。ディカプリオの役どころはおそらく彼のキャリアで最も愚かで浅はかなキャラクターだが、それを極めた怪演、あっぱれである。(諭)