毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.11.29
「山逢いのホテルで」 女性の気品と自由への渇望
仕立て屋のクローディーヌ(ジャンヌ・バリバール)は自宅で仕事をし、障害のある息子を育てるシングルマザー。毎週火曜日は山間(やまあい)のホテルに行き、快楽を求めて単身の男を選んで誘い、その場限りのアバンチュールを楽しんでいた。ある日、以前に部屋をともにしたハンブルクに住む水力発電の研究家ミヒャエル(トーマス・サーバッハー)とダムの近くで再会、2人はひかれあっていく。
母であると同時に一人の女でもあるクローディーヌの葛藤が語られるが、偏りなく双方を肯定した女性像を構築する。清楚(せいそ)な白いワンピースでホテルに向かう姿に自立した女の威厳を漂わせ、情熱的な恋に落ちる一方で、かいがいしく献身的に息子の面倒をみる。二つの顔を持つ一人の女性を、不自然でなく演じたバリバールに見ほれてしまう。山やダムの光景や、心情を映し出す劇伴音楽の旋律も美しい。物語自体はいたってシンプルだが、全編に流れる気品と自由への渇望、女性の解放を静かに後押しする逸品。ダイアナ妃のエピソードも的を射ている。マキシム・ラッパズ監督。1時間32分。東京・シネスイッチ銀座、大阪・テアトル梅田ほか。(鈴)
ここに注目
電車とケーブルカーを乗り継ぎダム湖を渡り、母と女の二つの世界を行き来する空間配置も巧妙だ。隔絶されているはずの世界が交わって苦悩したクローディーヌは、究極の選択をする。日本的な心情からは衝撃的だが、バリバールの凜(りん)とした姿には説得力があった。(勝)