「まる」

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2024.10.25

特選掘り出し!:「まる」 監督の覚悟と意志が鮮明に

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

美大卒だがアートで身を立てられず、現代美術家のアシスタントをしている沢田(堂本剛)は腕をケガしてクビになる。アパートの部屋でアリに導かれるように描いた「〇」が人気となり、正体不明のアーティストとして一気にもてはやされる。沢田は口数が少なく何事も受け身。画廊オーナー(小林聡美)や怪しげなアートディーラー(早乙女太一)に言われるままに行動し、自分を見失っていく。

評判に便乗する金もうけ優先の人々や、流行を追いかけるばかりの世間の風潮を痛烈に批判。前作「波紋」と同様にその刃は鋭く、外国人差別など世の中の不条理にも向けられる。荻上直子監督は心底怒っているのだ。隣人の売れない漫画家(綾野剛)ら周囲は誰もが人間臭く、沢田のフワッとしたキャラクターや内面を、風刺とアイロニーを交えて浮き上がらせた。

ただ、本作の神髄はその先にある。長編映画監督デビューから20年。荻上監督は自身に問うているのではないか。なぜ映画を撮るのか、思いのまま映画を撮るためにどう生きるのかと。沢田の奥底にある気持ちに自身を重ね合わせたのだろう。ラストに登場する絵には、その覚悟と意志が鮮明に映し出されている。1時間57分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(鈴)

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