毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.1.26
特選掘り出し!:「みなに幸あれ」 堂々と描く奇怪な出来事
ホラー界の新たな才能発掘を目的とした「第1回日本ホラー映画大賞」で大賞に輝いた下津優太監督の商業映画デビュー作。清水崇が総合プロデュースを務めた。
看護学校に通う若い女性(古川琴音)が久々に田舎の祖父母の家を訪れる。しかし、その家にはえたいの知れない何かの気配が……。
序盤はJホラーお決まりの心霊ものかと思わせるが、その予想は根こそぎ覆される。祖父母や村人たちの不可解な言動が相次ぎ、屋敷内に潜む〝何か〟の正体があらわになると、映画は不条理な領域へまっしぐら。この村は〝幸せ〟を保つための異常な法則に支配されており、そのダークサイドに触れた主人公は違和感を覚える。ところが村人たちから見れば、外様の常識人である彼女の方が異物。そうして主人公がなすすべもなく孤立していく展開がスリリングだ。
シュールなまでに奇怪な出来事を堂々と映し出す作り手の胆力、主人公のネガティブな変容を体現した古川の演技にも目を見張る。その半面、恐怖と笑いの際どい一線を狙った描写が緊張感をそぎ、幸福をめぐる皮肉なテーマも消化不良気味。随所に才気を感じさせるだけに、次回はもっと恐ろしい映画を期待したい。1時間29分。東京・テアトル新宿、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(諭)