毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
「ミゼリコルディア」©2024CG Cinéma Scala Films Arte France Cinéma Andergraun Films Rosa Filmes
2025.3.21
特選掘り出し!:「ミゼリコルディア」 暗い愛憎渦巻くスリラー
ヨーロッパで高い評価を受けながら、日本に紹介されていなかったフランスの鬼才アラン・ギロディの3作品が一挙公開される。そのうち最新作の「ミゼリコルディア」は、とある田舎の村を舞台にした犯罪映画だ。主人公は、かつて師事したパン屋の主人を弔うために帰郷した青年ジェレミー(フェリックス・キシル)。彼は亡くなったパン屋の妻マルティーヌ(カトリーヌ・フロ)の家に泊めてもらうが、彼女の息子が失踪し、ジェレミーに疑惑の目が向けられる。
観客はジェレミーが前半である重大な罪を犯す光景を目撃し、彼がそれを隠蔽(いんぺい)する様を見つめることになる。つまり事実がすべて開示され、これといった謎が存在しないサスペンス劇なのだが、ジェレミーと村人たちが織りなす人間模様には暗い愛憎が渦巻き、登場人物の内なる猜疑(さいぎ)心や欲望をあぶり出すヒューマンミステリーの様相を呈していく。耳慣れない題名はフランス語で「慈悲」という意味で、その主題を体現する神父の予測不能の言動にも驚かされる。
秋景色の村には寂寥(せきりょう)感が漂う。人間という生き物の不可解さ、倫理で割り切れないこの世の有りようを描いた不条理スリラーとも言える一作。1時間43分。東京・シアター・イメージフォーラム。大阪・第七藝術劇場(4月12日から)など全国でも順次公開。(諭)