「私の想う国」

「私の想う国」©Atacama Productions-ARTE France Cinema-Market Chile2022

2024.12.20

時代の目:「私の想う国」 新しい世代、未来への希望

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

2019年10月、チリ・サンティアゴの地下鉄料金値上げをきっかけに社会への不満が噴出し、大きな市民運動となって、21年に左派ボリッチ大統領を誕生させた。1970年代に、チリの左派アジェンデ政権の誕生からピノチェトらの軍事クーデターによる崩壊までをドキュメンタリー「チリの闘い」としてカメラに収めたパトリシオ・グスマン監督が、祖国の新たなうねりを記録した。

「チリの闘い」で運動を主導したのは、労働組合や政党の男たちだった。しかし本作の中心は女性だ。党派色やイデオロギーではなく、家父長制からの解放や格差解消、子どもの未来といった要求を、生活者目線で主張する。デモは150万人にも膨れ上がった。

グスマン監督は新しい世代の運動を、未来への希望として捉えている。諦観と現状維持志向が目立つ日本と比べれば、行動する市民のエネルギーはうらやましい。半面、「チリの闘い」ではアジェンデ政権が米国の介入と内部分裂によって挫折したことを示した。ボリッチ政権も盤石ではなく、右派の抵抗でピノチェト時代の憲法を改正する動きは頓挫したまま。変革の可能性と、その困難も考えさせられる。1時間23分。東京・アップリンク吉祥寺ほか。大阪・テアトル梅田(27日から)ほか全国で順次公開。(勝)

この記事の写真を見る

  • 「私の想う国」
さらに写真を見る(合計1枚)