「ぼくは君たちを憎まないことにした」 ©2022 Komplizen Film Haut et Court Frakas Productions TOBIS  Erfttal Film und Fernsehproduktion

「ぼくは君たちを憎まないことにした」 ©2022 Komplizen Film Haut et Court Frakas Productions TOBIS Erfttal Film und Fernsehproduktion

2023.11.10

「ぼくは君たちを憎まないことにした」 驚嘆すべき決意が生む希望

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ジャーナリストのアントワーヌ(ピエール・ドゥラドンシャン)は妻のエレーヌ(カメリア・ジョルダナ)と幼い息子とともに、せわしないながらも幸せな毎日を過ごしていた。しかし、エレーヌがテロの犠牲となって、命を落としてしまう。アントワーヌはあふれ出てくる自分の気持ちをSNSにアップする。そこには息子とこれからいつも通りの暮らしを送ること、息子もまた「君たちを憎まない」とつづられていた。

テロ発生から2週間の出来事をつづった世界的ベストセラーを映画化。悲しみの渦中にいても小さな息子はぐずり、アントワーヌはいら立って声を荒らげる自分に嫌気が差す。自分が書いた前向きなメッセージに、自分自身が苦しめられることもある。それでも続いていく日常の風景を丹念に描いているからこそ、ある日突然、最愛の人が目の前から消えてしまう喪失感とどう向き合うのか、命を奪った者を許すことは可能なのか、そんな重い問いかけが静かに胸に響く作品になっている。キリアン・リートホーフ監督。1時間42分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(細)

ここに注目

アントワーヌは妻の遺体と対面した時も泣き叫んだりしない。感情をあらわにすることはほとんどない。喪失感はその分痛いほど伝わってくる。リートホーフ監督のカメラは残酷だ。絶望と向き合う主人公を淡々と撮り続ける。驚嘆すべき決意が希望を生むことに、説得力を与えることになった。(鈴)

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