「お母さんが一緒」 ©2024 松竹ブロードキャスティング

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2024.7.12

この1本:「お母さんが一緒」 家族の面倒臭い2対1

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

「恋人たち」(2015年)で毎日映画コンクール日本映画大賞を受賞した橋口亮輔監督の9年ぶりの新作。ペヤンヌマキの舞台劇を原作としたドラマシリーズを再編集した。旅館の中を舞台にした4人の登場人物によるセリフ劇は、大笑いして身につまされ、ちょっとしんみりするホームドラマだ。橋口監督、らしさを保ちながら新境地である。

母親の誕生日のプレゼントとして、弥生(江口のりこ)、愛美(内田慈)、清美(古川琴音)の3姉妹が母親を連れて山中の温泉旅館にやってくる。しかし、楽しいはずの家族旅行は出だしから危なっかしい。到着するなり、弥生は部屋がかび臭いとか露天風呂が小さいとか、文句ばかり。全てをお膳立てした愛美は面白くないし、清美は2人の間を取り持とうと気を使う。3姉妹の関係は微妙らしい。

画面に登場しない母親を中心に、対〝めんどくさい母親〟で結束しているはずの3姉妹は、関係のバランスを刻々と変えてゆく。

弥生は実は母親に生き写し。期待に応えようと努力したのに「1人だけ一重まぶた」のせいで認められず、かわいさが取りえの愛美ばかりちやほやされてきた、と思い込んでいる。被害者意識の強い弥生を持て余す妹2人だが、清美が婚約者のタカヒロ(青山フォール勝ち)を紹介したいと言い出し空気が変わる。男運が悪く独身の愛美は妹が先に結婚するのが面白くない。

絶妙な距離感で配された姉妹に、組み合わせの違う2対1の状況が次々と生じる。家族ならではの親近感と反発が入り交じり、その外にいる〝黒1点〟のタカヒロのランダムな動きも加わって、瞬時に形を変えるいびつな三角形が笑いとなる。橋口監督は、限られた空間の人物配置に関係性を象徴させ、セリフのリズムと間で複雑に重なり合う感情を醸成していく。

家族はめんどくさい。でもかけがえがない。くびきでもあり支えでもある。人間の負の側面を見つめながら、根底には愛がある。橋口監督の人間観が原作を通して娯楽性とともに昇華され、忘れがたい秀作となった。1時間46分。東京・新宿ピカデリー、大阪・T・ジョイ梅田ほか。(勝)

ここに注目

ほのぼの系のホームドラマと思いきや、想像のはるか上を行く「そこまで言うか」の罵詈(ばり)雑言の応酬にびっくり。とりわけ辛辣(しんらつ)な文句を連発する江口が、妹たちに痛いところを突かれたときの逆ギレぶり、イジケぶりがすごい。絶叫が飛び交い、乱闘にまでエスカレートする修羅場を目の当たりにしながら、いつ他の客や旅館から苦情が来るかとハラハラ。そんなこちらの心配などお構いなしに、ひょうひょうとした異物感を漂わせる青山、軽妙なコメディエンヌぶりを披露する古川の魅力も収穫だった。(諭)

技あり

映画に畳の部屋が出てくることが少なくなっているが、母の誕生祝いに温泉旅館にやって来た3姉妹の話だから、畳の間が主になる。上野彰吾撮影監督が模索しながら撮った。3人が集まる一室が舞台。床の間のある部屋と右奥の布団が見える部屋、左の鏡台が置いてある部屋の三つに分かれ、雪見障子や押し入れなどが背景になる。姉妹の間に乱闘が起きるが、どこが背景になっても一定の明るさがあり影が出ない。俳優が自由に動けるよう、あらかじめ作っていたのだろう。新しい日本間の撮り方が見えた。(渡)

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