「それでも私は生きていく」

「それでも私は生きていく」

2023.5.12

「それでも私は生きていく」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

夫亡き後、通訳の仕事をしながら幼い娘を育てているサンドラ(レア・セドゥ)。病によって記憶と視力を失いつつある父(パスカル・グレゴリー)のもとにも足を運び、忙しい毎日を送っている。ある日、旧友のクレマン(メルビル・プポー)と再会した彼女は、妻子ある彼と恋に落ちていく。

「未来よ こんにちは」のミア・ハンセン・ラブ監督が自身の経験をベースにして撮った作品。かつては哲学の教師であり、本棚から知性が伝わってくる父が変わっていく姿を目にしたサンドラが涙をこらえたり、にじませたりする姿が何度も映し出される。失われゆくものへの悲しみや介護の大変さとともに描かれるのは、娘とのたわいないからこそ尊い日常と、クレマンとの新しい関係だ。愛を求めながらも常に惑い続けるサンドラの揺らぎをセドゥが繊細に表現していて、彼女に感情移入せずにはいられなくなる。35㍉フィルムで撮影された美しい映像は、光が差す天気のいい日があれば人生は何とかなるかもしれないという、ポジティブな気持ちを運んできてくれる。1時間52分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(細)

ここに注目

ミア・ハンセン・ラブ監督は残酷だ。「あの夏の子供たち」や「未来よ こんにちは」でもそうだった。本作ではサンドラに、病が進む父が自分から離れていく寂しさ、恋人と共にいる喜び、迷いといった錯綜(さくそう)する感情を負わせ、その機微を描き出す。そこからあふれ出すのは生への賛歌である。(鈴)

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