「ペナルティループ」 © 2023『ペナルティループ』FILM PARTNERS.

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2024.3.22

「ペナルティループ」 ブラックユーモアも 巧みなオリジナル脚本

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

岩森(若葉竜也)は、恋人の唯(山下リオ)を素性不明の溝口(伊勢谷友介)に殺される。復讐(ふくしゅう)を決意した岩森は綿密な計画を立てて溝口を殺害するが、翌朝目覚めると周囲は昨日のままで、殺したはずの溝口は生きている。岩森は戸惑いながら復讐を繰り返すものの、何度殺しても同じ日に戻ってしまう。

意図せずにループに巻き込まれていく従来のタイムループものとは一線を画し、主人公が自ら復讐のループを選択したという設定が次第に分かってくる。岩森と溝口が次第に意気投合したり殺害方法や駆け引きに変化もあったりと、ブラックユーモアも交え、笑いさえ誘う。

ループものでは物語が進むほど時間軸や空間軸の矛盾が露呈しがちだが、違和感や破綻なく見せるオリジナル脚本が巧みで、設定や結末にいたる展開も論理的。岩森が勤める水耕栽培工場の無機質性も効いている。ただ、登場人物がほぼ3人と少ないだけに、唯や溝口の素性などは最後までもやがかかったままで、絵空事に見えてしまったのが惜しい。荒木伸二監督。1時間39分。東京・新宿武蔵野館、大阪・シネマート心斎橋ほか。(鈴)

ここに注目

初めは復讐に必死だった岩森だが、溝口との協力関係が生まれ、より効率的な殺害方法を模索する展開には笑ってしまう。殺人が繰り返され、殺す側も殺される側もその行為に慣れていく姿は人間の本性を表しているようで恐ろしくもある。自分だったら岩森と同じ選択をするか。深く考えさせられた。(倉)