「ソウルの春」

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2024.8.23

「ソウルの春」 心揺さぶる野望と信念の対立劇

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

1979年10月26日に起こったパク・チョンヒ大統領暗殺事件の余韻もさめやらぬ同年12月12日、軍内の秘密組織ハナ会の将校たちを束ねるチョン・ドゥファン保安司令官がクーデターを実行。翌年5月の光州事件とともに、当時の韓国における民主化ムードを打ち砕いた軍事反乱事件を映画化した。

9時間にわたるクーデターの内幕を描くにあたり、実在の政治家や将校を架空の名前に変更。そのため大勢の登場人物の相関図を把握するのに骨が折れる。しかし激動の現代史に虚構を織り交ぜ、重厚な娯楽大作に仕立てるのは韓国映画界のお家芸。チョン・ドゥファンをモデルにした傲慢なチョン・ドゥグァンにファン・ジョンミン、反逆者の掃討に挑む首都警備司令官イ・テシンにチョン・ウソンという2大スターを配し、反乱軍と鎮圧軍の攻防をスリリングに映し出す。北朝鮮と対峙(たいじ)する前方部隊の動向、漢江にかかる橋の閉鎖など、情勢の激しい変化にぐいぐい引き込まれ、歴史の背後に渦巻く野望と信念の対立劇に心揺さぶられる一作だ。キム・ソンス監督。2時間22分。東京・角川シネマ有楽町、大阪・T・ジョイ梅田ほか。(諭)

ここに注目

スター俳優がそろい、複雑な人物相関図へのアプローチが容易に。パク・チョンヒ大統領暗殺事件を描いた「KCIA 南山の部長たち」、光州事件が題材の「タクシー運転手 約束は海を越えて」などクーデター前後を描いた作品とともに鑑賞すれば、韓国の歴史に対する解像度がさらに上がる。(細)

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