毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2023.10.13
「春画先生」 性と生の美学を豊かな愛情と共に描く
春画研究者の芳賀一郎(内野聖陽)は、妻に先立たれても春画に没頭する日々を送っている変わり者。ある日、喫茶店で芳賀に出会った春野弓子(北香那)は春画に心を奪われ、芳賀に恋心を抱く。芳賀の担当編集者・辻村(柄本佑)や芳賀の亡き妻の姉・一葉(安達祐実)によって、芳賀と弓子は新たな愛の深みへといざなわれ、覚醒する。
春画にひたすらのめり込む芳賀と弓子がおかしく、辻村ら登場人物はみんな明るく、どこか艶っぽい。見ていくうちに、不思議と誰をも好きになってしまう。好きなものに心底熱中する姿に、すがすがしさがあふれている。弓子の好奇心とピュアな探求心が芳賀の心の奥を解放し、観客の内面までも軽い気分にしてくれる。芳賀と弓子の関係性が師弟から次第に逆転する様は時代の反映だろう。性が人のおかしさや生命力をあらわにした映画は数多くあるが、本作は性と生の美学を明るく豊かな愛情と共に描く快作となった。俳優陣、中でも強い意志を持った北の突進力がまぶしい。
塩田明彦監督。1時間54分。東京・シネスイッチ銀座、大阪ステーションシティシネマほか。(鈴)
ここに注目
つい直接的な性交描写に目が行きがちだが、細部に注目するとがらっと見え方が変わる。そんな春画の奥深さを具体的な事例と共に伝える映像世界は、軽やかにしておおらかな仕上がり。幾多の矛盾にもだえ苦しむ先生と、禁断の世界への冒険によって変容するヒロインの師弟ドラマもまた楽しい。(諭)