毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2023.7.28
「シモーヌ フランスに最も愛された政治家」
2017年に89歳でこの世を去ったフランスの政治家シモーヌ・ベイユの伝記映画だ。1974年に厚生大臣として中絶合法化を成し遂げ、79年には女性初の欧州議会議長に就任。さらに刑務所の環境改善、エイズ患者への支援など、女性や弱者の人権を守ることに尽力したベイユの軌跡をたどる。時代ごとにベイユを演じ分けたのは、エルザ・ジルベルスタインとレベッカ・マルデール。
ベイユが打ち立てた数々の功績と、女優陣の熱演から伝わってくる彼女の信念の強さに驚くばかり。その半面、ホロコーストという悲劇的な原体験を持つユダヤ人の彼女は、妻であり母親でもあった。そんなベイユの公私両面に光を当てながら、幼少期から晩年までのエピソードを、時制をシャッフルさせてつなぎ合わせた語り口は慌ただしく、演出過剰の印象も否めない。テレビシリーズ並みのボリュームを2時間20分にまとめた力業はすごいのだが。監督は「エディット・ピアフ 愛の讃歌」「グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札」のオリビエ・ダアン。東京・ヒューマントラストシネマ有楽町、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(諭)
異論あり
シモーヌ本人の壮絶な人生と数々の業績は、リニアに描き出した方が現代の観客に力強く伝わったのではないか。時系列を複雑に交錯させた語り口がふさわしかったかどうかは疑問が残る。それにしても決して揺るがぬ信念と言葉を持つ彼女のような政治家が今、いてくれたらと願わずにいられなくなる。(細)