「辰巳」 ©⼩路紘史

「辰巳」 ©⼩路紘史

2024.4.19

この1本:「辰巳」 暴力の果て 救いあるか

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

よくぞこれだけ悪相の俳優を集めたものだ、と思うほど、登場人物が濃い。地顔が、というよりこれは演出と俳優陣の奮闘の成果だろう。そんなコワモテの男女による、裏社会を舞台にした復讐(ふくしゅう)劇。手加減のない暴力を容赦なく描写するから目を背けたくなる場面も多々あって、映倫区分もR15+(15歳未満は鑑賞禁止)。賛否は大きく分かれそう。しかしすさんだ暴力があるからこそ、その果てに残る一片の人間らしさに真実味がある。暴力描写に耐性のある大人限定で、お勧めしたい。

暴力組織の遺体処理係の辰巳(遠藤雄弥)は、元恋人・京子(亀田七海)の妹葵(森田想)が麻薬をくすねた尻拭いを依頼され、仕方なく手を貸すことになる。一方組織内では麻薬の横流しの犯人捜しから確執が表面化、凶暴な竜二(倉本朋幸)が暴走し京子を殺害、目撃した葵が狙われることになった。

暴力のちまたに巻き込まれた無力で無垢(むく)な女性を、人情に厚いヒーローが身をていして守る――というお決まりのヤクザものの図式とは大違い。葵は無鉄砲でワガママ、気性が荒い。事態を収めようとする辰巳らの制止を振り切って復讐を図る。しかし浅はかで愚かだから、状況は悪くなる一方だ。それでも辰巳は、麻薬で弟を死なせたことを悔やんでいて、葵を放っておくことができない。

デビュー作「ケンとカズ」(2016年)でも歯止めなき暴力を描いた小路紘史監督。今作も自主製作で、自身の世界を追求した。伝統的なヤクザ映画は、親子のさかずきとか義理人情といった倫理があったし、〝ラスボス〟たる標的がいた。しかし、この映画の組織は自己中心的な利益を追求する悪党の集まりで、行動原理は怒りと復讐心だ。かろうじて漂う情もブレーキにならず、際限がない。

かくして葵の周りには、多くの血が流れ人が死ぬ。突き進んだ先に何が残るのか。葵の最後の表情は、救いと受け取れるだろうか。厳しい問いを投げてくる。1時間46分。東京・ユーロスペースほか。大阪・テアトル梅田(26日から)など全国順次公開。(勝)

異論あり

あらゆる場面にただならぬ迫力がみなぎり、ジャンル映画の水準をクリアしていることは間違いない。突如として俯瞰(ふかん)ショットで挿入される荒野のロケーションへの映画的な飛躍、奇妙な異物感を漂わせる脇役の後藤剛範など目を引く要素も随所に。その半面、無国籍テイストを打ち出した裏社会の世界観は古めかしく感じられるし、〝狂気〟を絶叫調の演技で表しがちな日本映画の悪癖も見られる。辰巳と葵のヒューマンなドラマは魅力的だが、クライムスリラーとしては脚本にもひねりがほしかった。(諭)

技あり

「日本的なものをなるべく排除した」という小路監督の自主製作映画を、山本周平撮影監督が撮る。殺し合いはアップで背景はピンぼけ、照らすのはオレンジの白熱灯。終盤、辰巳が葵を連れ、竜二がいる路地裏の中華食堂に乗り込む。竜二は撃たれた足を机に上げて手当て中。向かい合う葵、下手の辰巳、真ん中に白熱灯。飛び掛かろうとする竜二を辰巳が押さえて葵が刺す。終幕、葵が車に乗り、走り出す。カメラは港の俯瞰から横に動き、車が去って行く。俯瞰はセンスが問われるが、このカットはすてきだった。(渡)

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