私と映画館

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2024.7.26

私と映画館:大都市への小旅行

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

1969年に高校に進むと、映画への欲望が一段と膨れ上がってきた。勉学、そっちのけである。完全に進学校の受験戦争から脱落した。中学生の頃から、郷里の浜松で断続的に映画を見ていると、欲望の別の側面があらわになった。大劇場、大スクリーンで見たくなったのである。

「シネラマ」という破格の大きさを持つスクリーンで見たい。浜松にはない。どうするか。一番近い大都市の名古屋に行こう。名古屋ならあるだろう。目指したのは、当時、国鉄・名古屋駅前近くに位置していた「シネラマ名古屋」だった。新幹線ではなく、東海道線で赴いた。

名古屋駅前周辺のビル群に圧倒された。ビルの重厚感に大都会の息吹を感じた。歩く人が少なかったのは、どういうことだったのか。ビジネス街のような気もしたが、栄という繁華街が少し先にあることなど、知るよしもない。そしてついに、シネラマ名古屋にたどり着いた。

予想外の作品を上映していた。渡哲也主演の日活配給作品「荒い海」だ。南極海での捕鯨船をめぐる海洋ものだったが、大劇場、大スクリーンの迫力に圧倒された。これが「シネラマ」なのか。どうも、そうではないようなのだが、満足感はあった。映画ではなく、映画館が目的の小旅行だった。これから歩む映画旅の、見果てぬ道筋のとばぐちに立っていたのである。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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