「海の沈黙」

「海の沈黙」©2024 映画『海の沈黙』INUP CO.,LTD

2024.11.22

「海の沈黙」 贋作をめぐる重厚なミステリー

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

世界的な画家・田村修三(石坂浩二)の展覧会で作品のひとつが贋作(がんさく)だと判明し、保有していた美術館の館長が自殺。一方、北海道・小樽で全身入れ墨の女性の死体が発見される。二つの事件から新進気鋭の天才画家と称されながら、突然人々の前から姿を消した津山竜次(本木雅弘)が浮かび上がる。かつての竜次の恋人で現在は田村の妻である安奈(小泉今日子)は小樽へ向かい、竜次と再会する。

倉本聰の脚本を「沈まぬ太陽」の若松節朗監督で映画化。贋作をめぐるミステリーから男女の秘めた思いへとつながり、美とは何か、作品の価値はどこにあるのかといったテーマも掘り下げた。鑑定家や竜次を慕う女、フィクサーらを配した劇的でスピーディーなドラマを、中井貴一や仲村トオル、清水美砂らベテラン俳優陣が支えた。重厚感あふれる作品だが、物語や感情の機微をほとんどセリフで語るのが気になり、竜次の過去や振る舞いもやや誇張気味。ドラマに余白がなく、鑑賞後の余韻が薄れてしまったのが残念だった。1時間52分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズなんばほか。(鈴)

ここに注目

一枚の贋作が大きな波紋をもたらす第1幕は、美術界を舞台にしたスリラー調の趣向で、主人公がまったく画面に登場しない異色の構成だ。本木ふんする津山はいささか自己陶酔的にも映るキャラクターだが、枯れた外見に秘めた情熱をほとばしらせ時に色気をにじませるその存在感が映画をけん引する。(諭)

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