毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2024.8.16
「劇場版 アナウンサーたちの戦争」 人々を扇動する〝電波戦〟の実態
太平洋戦争直前から敗戦まで戦意高揚、国威発揚の放送を続けたラジオアナウンサーたちの苦悩や後悔を描く。昨年8月にNHKで放送されたドラマの映画版。和田(森田剛)と館野(高良健吾)は太平洋戦争開戦のニュースで国民を熱狂させるが、和田は次第に大本営発表を疑問視し、国家の宣伝者を自負する館野と対立する。一方彼らの同僚は、南方占領地に開設した放送局に赴任し、日本軍に都合のいい情報伝達に携わる。
言葉や声の力が人々を扇動し軍部と一体化していく恐ろしさを、NHKが自戒も込めて描いた。和田やその妻実枝子(橋本愛)らが葛藤しつつ、「電波戦」に傾倒した実態を伝える。現代の権力者はあらゆるメディアを駆使して情報を支配しようとし、真実の隠蔽(いんぺい)や危険なポピュリズムの台頭が著しい。本作が突き付けてくるテーマは、より複雑で重みを増している。アナウンサーの視点に終始しているが、いかにして社会や個人が戦争に傾き、加担していくかを考察できる作品でもある。一木正恵監督。1時間53分。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪ステーションシティシネマほか。(鈴)
ここに注目
ウソの情報を抑揚や声の調子で演出して伝え、聴取者を鼓舞した戦時下のラジオの影響力を見つめ直す。テレビ的な演出がいささか過剰だが、アナウンサーが実名で登場し、資料映像も盛り込んだ誠実さ。ラジオと並ぶ情報源だった新聞が、同じ過ちを犯していたことも考えさせられた。(勝)