「僕らの世界が交わるまで」 © 2022 SAVING THE WORLD LLC. All Rights Reserved.

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2024.1.19

この1本:「僕らの世界が交わるまで」 母子の性格描写が秀逸

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

高校生のジギー(フィン・ウォルフハード)は、ネットのライブ配信で自作の曲を披露し、世界中の視聴者から〝投げ銭〟を稼ぐ。ジギーの母親エブリン(ジュリアン・ムーア)はDV被害者のシェルターを運営し、助けを求める女性たちに真摯(しんし)に寄り添っている。2人とも善良で害のない人物だし家庭も一見平和なのだが、互いを理解できず、不満を抱えていた。実は似たもの同士の母子が、自分たち自身と親子関係を見つめ直すコメディーである。

というこの映画、俳優のジェシー・アイゼンバーグ初監督作。出世作「ソーシャル・ネットワーク」でもヒーロー映画の悪役でも、どこか屈折した人物をギリギリ露悪にならない線上で演じた巧者。鋭い人間観察は監督に回っても健在で、母子はちょっとずつめんどくさい。彼らへのまなざしは、毒を含みながら温かい。そこがユニーク。

それぞれの性格描写が振るっている。エブリンが事務所の受付の女性に話しかける。「働いて何年?」など当人は雑談のつもりなのに、相手は「クビってことですか?」とビクビクする。ジギーは社会意識の高い級友ライラ(アリーシャ・ボー)の気を引こうと「フォロワーが2万人」と繰り返してドン引きされる。ジギーもエブリンも、自分のことしか見ていないナルシシスト。他者に善意を示し理解しようとしているようで、実は理想を押しつけているだけ。そしてそれがミエミエ。

そんな2人が他者と出会う。ジギーはライラの議論に割り込んだり政治集会に参加したりと懸命だが、常にトンチンカンで的外れ、まるで歯が立たない。エブリンは、シェルターで暮らすことになった、母親思いの優等生カイル(ビリー・ブリック)に入れ込んで、将来の心配までし始める。そして2人とも、手痛いしっぺ返しを食らう。

一生懸命だけれど、はたから見るとイタいという空回りを、アイゼンバーグは巧みに描いた。小市民的に葛藤する人物の肖像にとどまり、普遍的な深みには至らなかったが、才気は随所に光る。1時間28分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)

ここに注目

アイゼンバーグと製作を務めたエマ・ストーンは、かつて「ゾンビランド」で共演したコンビ。その後、ハリウッドで華やかなキャリアを歩んだ2人が手を組み、こんなにもいとおしいインディーズ風の小品を作り上げるとは。本作の魅力はキャラクター描写の細やかさだ。社会奉仕にまっしぐらの母と、音楽配信に熱中する息子。両者の日常をパラレルに見せながら、実は似たような悩みを抱える2人の心模様を巧みに紡いだ。神経症的な痛々しさを表現したムーアの演技もさすが。(諭)

技あり

ベンジャミン・ローブが撮影監督。米国の地方の小市民生活を描くのに、地味な発色のフィルムを選んだのがよかった。淡い色調の町を、エブリンの小さく真っ赤な電気自動車が走り回る。目立ち加減が彼女の社会活動の象徴となる。家族であることの面倒臭さを背負った夫は、食事室の大きすぎるシャンデリアのオレンジ光と樺(かば)色の家具に埋没し、エブリンが立つキッチンの壁は薄緑色。ジギーの部屋は赤色灯が回転し、描き分けの妙。ローブは「アフター・ヤン」のような近未来物もそれらしく撮るが、軽妙な家族映画でも結果を出した。(渡)

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