「ワース 命の値段」 © 2020 WILW Holdings LLC. All Rights Reserved

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2023.2.24

「ワース 命の値段」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

2001年米同時多発テロ被害者の補償金分配をめぐる社会派作品。米政府は被害者と遺族の救済を目的とした補償基金プログラムを始動させ、弁護士のファインバーグ(マイケル・キートン)は特別管理人として独自の計算式で個々の補償金額を算出する方針を打ち出すが、被害者遺族は猛反発。ファインバーグは苦境に立たされる。

7000人もの対象者がいて、命にどう「値段」を付けるのか。国や航空会社を相手とする提訴を退けようと奔走するプログラム推進派と反対派の葛藤を映し出す。ゲイのカップルや非嫡出子らをクローズアップしつつ、個々の悲しみや喪失感、現実的な選択の意味に迫ろうとした意欲をかいたい。補償金の交渉という映像化が困難なテーマと、推進派と反対派というカタルシスを呼び起こす展開が併存する微妙な感覚の作品であることも否めない。いまなおどう受け入れるべきか答えの出しにくい映画にもなっている。サラ・コランジェロ監督。1時間58分。東京・TOHOシネマズ日本橋、大阪ステーションシティシネマほか。(鈴)

ここに注目

補償額の計算式だけを信じ、遺族の心に寄り添う必要性を感じていなかったファインバーグが変わる姿に希望を感じる。命をお金に換算するしかない現状はむなしいが、9・11後の戦争による被害者に補償はあったのかと考えると、「命の平等とは何か」と問われている気がした。(倉)