「SHOGUN 将軍」

「SHOGUN 将軍」©2024 Disney and its related entities

2024.11.21

英国ルームメートと見た「SHOGUN 将軍」 英語にした途端にビュンっと戦国時代が身近に感じられる

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

青山波月

青山波月

「日本人って本当に美しい」。イギリスに住む私のルームメートがこのドラマを見て放った一言だ。米エミー賞で作品賞、主演男優賞、その他の受賞を含め過去最多の18の賞を獲得したドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」。受賞した直後は、私のSNSのタイムラインに主演・真田広之の流ちょうかつ、日本人ならではの謙虚さがうかがえる英語のスピーチ映像が流れてきた。

しかし、エミー賞を受賞したとて外国人はこのドラマを認識しているのだろうかと思い、SNS上でイギリス現地の友達に「Do you know this drama? (このドラマを知っていますか?)」というアンケートを行った。結果、70%以上の人が知っており、なんなら日本人の友達の方が「何それ?」という感じ。真田広之が受賞スピーチで述べた「この作品は東洋と西洋が出会う夢のプロジェクト」という言葉が、〝願望〟ではなく〝現実〟で実現されているんだと私は強く実感した。
 

難しい日本語セリフも〝心配ご無用〟のワケ

ドラマ「SHOGUN 将軍」は、徳川家康をモデルとした架空の武将・吉井虎永が、日本に漂着したイギリス人航海士と関わることで、戦乱の世をくぐり抜け天下統一を目指す様を描いた作品。この作品は、アメリカのドラマであるにもかかわらず大半が日本語のセリフだ。そして、実際に私が鑑賞して、これは英語圏の人たちに理解できるのか……?と最初は思った。戦国時代ならではの言葉づかい、そして日本ならではの奥ゆかしい語彙力(悪くいうと回りくどい言い方ともいう……)。

日本語ネーティブの私でも、〝それがし〟や〝愚身〟など多すぎる一人称に惑わされたりなど、恥ずかしながら理解に時間がかかるセリフがあるのだ。「これはみんな分かっているのか?」とルームメートの様子をチラッとうかがうと、心配などご無用といった様子で夢中で観賞していた。私がつまずいた一人称問題も英語では全て「I(私)」に訳される。英語にした途端にビュンっと戦国時代の言葉が身近に感じるようになる。日本人でも難しくて敬遠しがちな時代劇だが、英語で楽しむことでこんな化学反応が起こるんだと今まで知らなかった発見だった。
 

私の中の愛国心が歓喜したステレオタイプからの脱却

この作品がエミー賞を受賞した際に、世の中で話題を呼んだトピックは「ステレオタイプからの脱却」。多様性がこんなにうたわれる現代もなお、ハリウッドをはじめとする欧米ではアジア人、そして日本人とは〝こういうもの〟というステレオタイプの像がある。ハリウッドで日本を描くなら、着物、ヤクザ、アニメなどをとりあえず登場させ、肝心の日本人役は日本人じゃなくてアジア系の役者、だという作品を今までいくら見てきたことか。映画の世界だけではなく、私がイギリスで「日本から来た」と言うと「ニーハオ」や「アニョハセヨ」と何度言われたことか。

海外から見て日本という国の輪郭がぼやけていた中で、「SHOGUN 将軍」が真の日本の姿をうそ偽りなく見せてくれたことに対し、私の中の愛国心が「よくぞやってくれた!」と言わんばかりに歓喜した。日本人のキャストを起用してくれたこと、日本の文化をねじ曲げずに演出したこと、そして、日本人の生き様はこういうものだ!と伝えてくれたことがとてもうれしかった。私の友達は、〝宿命〟に生きる物語の中の日本人を「美しい」と言った。美しい着物に身を包んだ外見、洗練された美しい所作、そして何よりもその生き様が美しいと感じたらしい。まるで、物語に出てくるイギリス航海士のように、友達は目の前に現れた威厳満ちた武将に感服していた。
 

忘れないでいたい、自分にも備わっている〝美しさ〟

最近は「I’m from Japan.(私は日本出身です)」と言うと、「SHOGUNを見たよ!」と言われることがたまにある。その度に、日本語のドラマを見たよ!とイギリスで言われる日が来るなんて誰が想像したかと思う。私もただの一視聴者にすぎないが、作品に対して「かっこよかった」「面白かった」「日本に興味を持った」と感想を聞くと、なんだか自分まで褒められた気がして誇らしかった。

私もこの作品を通して、日本で生まれ育ったからこそ自分に備わっている〝美しさ〟というのをイギリスでも忘れないでいたいと再確認できた。と、いろいろ日本人の美点みたいなものについて沢山語ったけれど、とりあえずドラマとしてめちゃくちゃ面白いから!日本人も、そうでない人も、難しいこと考えずにぜひご覧いただきたい。

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ライター
青山波月

青山波月

あおやま・ なつ 2001年9月4日埼玉県生まれ。立教大学現代心理学部映像身体学科卒業。埼玉県立芸術総合高等学校舞台芸術科を卒業後、大学で映画・演劇・舞踊などを通して心理に及ぼす芸術表現について学んだ。現在は英国在住。
高校3年〜大学1年の間、フジテレビ「ワイドナショー」に10代代表のコメンテーター「ワイドナティーン」として出演。21年より22年までガールズユニット「Merci Merci」として活動。好きな映画作品は「溺れるナイフ」(山戸結希監督)「春の雪』(行定勲監督)「トワイライト~初恋~」(キャサリン・ハードウィック監督)。特技は、韓国語、日本舞踊、17年間続けているクラシックバレエ。趣味はゾンビ映画観賞、韓国ドラマ観賞。

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