「ワタシの中の彼女」©️T-Artist

「ワタシの中の彼女」©️T-Artist

2022.11.25

「ワタシの中の彼女」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

コロナ禍を生きる孤独な女性たちの心情を切り取った短編集。大学時代の演劇サークル仲間3人が20年ぶりにリモートで語り合う「4人のあいだで」、40代の視覚障害者の女性とオレオレ詐欺の青年との微妙な触れ合いを描く「だましてください、やさしいことばで」など温度差の異なる四つの短編で構成する。

主演はいずれも「夕方のおともだち」の菜葉菜。4人の女性の心の動きを抑制の利いた感情表現で演じた。20代から40代の4人に共通性など求めず、現代女性の一断面を映し出した。最もドラマ性が高く見入ったのが「ワタシを見ている誰か」。リモートワーク中の30代後半の女性が、フードデリバリーの男性に、配達した食事を玄関先で食べてほしい、と懇願する奇妙さに引き込まれた。ありえない展開とてんまつに希薄な人間関係と人のおかしみを醸し出した。コロナで打ち砕かれた生活と夢に踏み込んだ「ゴーストさん」は、切実な内容だけに会話劇だけでは物足りなさを感じた。中村真夕監督。1時間9分。26日から東京・ユーロスペースほか。(鈴)

ここに注目

4編とも、舞台をほぼ固定した会話劇で、まさに「今」の日本が題材だ。分断と孤立から連帯へ、憎悪よりも共感を。4人の主人公は「どこかの誰か」であり、「明日のあなた」。人間関係のありようが問い直されたコロナ禍で、改めて人と人が向き合うことの大切さを訴える。(勝)