オフィサー・アンド・スパイ  ©️ Guy Ferrandis-Tous droits réservés

オフィサー・アンド・スパイ ©️ Guy Ferrandis-Tous droits réservés

2022.6.03

オフィサー・アンド・スパイ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ロマン・ポランスキー監督が19世紀末のフランス社会を揺るがした有名な冤罪(えんざい)事件〝ドレフュス事件〟を映画化し、ベネチア国際映画祭銀獅子賞(審査員大賞)を受賞した歴史劇。ユダヤ系の陸軍大尉ドレフュス(ルイ・ガレル)がスパイ容疑で終身刑を宣告され、監獄島に送り込まれる。ドレフュスの元教官ピカール中佐(ジャン・デュジャルダン)は、ドレフュスの無実を証明する文書を発見し、軍上層部に対処を求めるが……。

正義感に燃える主人公が、哀れな冤罪被害者を救うという単純な美談ではない。孤立した人間の不安心理の描写にさえを見せるポランスキー監督は、体制側の良識派将校であるピカールの視点で全編を語り、腐敗した権力の嫌らしさ、恐ろしさをとことん冷徹にあぶり出す。事件の真実を指し示す手紙などの小道具、緻密な美術や衣装にもこだわった映像世界の何と濃密なこと。ポランスキー特有の繊細かつ不穏なサスペンス術に魅了される一作だ。2時間11分。東京・TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)

ここに注目

複雑なプロットを簡潔かつ印象的に見せる脚本と演出が群を抜いている。ピカールの信念や裁判での軍との確執、攻防はその最たるもので、緊迫感が途切れない。偏見や捏造(ねつぞう)、陰謀が渦巻く描写は現代への警鐘にもなっている。アイロニーに満ちたラストまで見せ場の連続だ。(鈴)