毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.1.20
チャートの裏側:ゴージャスが響く東京
「これぞ、ハリウッド」と言いたい。「ハウス・オブ・グッチ」である。人によっては、これほどワクワク感を抱かせるアメリカ映画も、最近では珍しいのではないか。ファッション界の最高級ブランド、グッチを確立した一族のお家騒動の話だ。面白くないはずがない。
レディー・ガガ、アダム・ドライバーという当代の実力者を主軸に、アル・パチーノ、ジェレミー・アイアンズら映画史を刻んだ俳優が脇を固める。中身が醸す蠱惑(こわく)的な魅力、俳優たちのゴージャスな布陣に、私自身もうっとりする。かつての洋画隆盛期のテイストがある。
ただ、このような言い方自体が、今や通じなくなっていることも強く感じる。日本人のグッチ信仰は、映画の舞台となる1980年代とは違う。名だたる俳優陣へのシンパシーも限定的だろう。それに、この題材はやはり都会向きだ。最終の興行収入は7億円前後が一つの目安か。
東京都内・日比谷のシネコンの平日午後の回、座席数の多い館内は、7割がた埋まっていた。これには驚いた。冒頭のワクワク感を抱いた観客たちと見た。翌日聞けば、大都市、特に東京の集客が抜きんでているという。東京には本作が響く人が比較的多いらしい。逆に地方では響かない。このギャップは、今の洋画興行の縮図にも見える。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)