©2022映画「島守の塔」製作委員会

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2022.8.15

「島守の塔」長い間繰り返して見るべき「平和文化の遺産」

国際交流基金が選んだ世界の映画7人の1人である洪氏。海外で日本映画の普及に精力的に活動している同氏に、「芸術性と商業性が調和した世界中の新しい日本映画」のために、日本の映画界が取り組むべき行動を提案してもらいます。

洪相鉉

洪相鉉

「このような美しいところで、あんなに多くの人々が自分の国のためにと信じて命を捨てたとは。沖縄戦がもう少し早く終わっていたら、彼らも救われたのかな」

「それは分からないね。しかも歴史において仮定は何の意味もないよ」

「・・・・・・そうだね。重要なのは、このような悲劇を繰り返してはならないということだ」

J。ニューヨーク時代の幼なじみである彼は、大学を卒業後アメリカ海兵隊将校として服務中だ。一緒に米須海岸(通称「スーサイド」)に行った。海軍士官学校を出た彼の祖父は1941年12月7日、真珠湾にいた。

Jとホテルに向かいながら、(飛躍しすぎた話かもしれないが) 悲劇は明治維新で国民国家が成立した後、支配層が人々の意識を誤導した結果としてもたらされたのではないかという話をした。例えば国民国家の成立期に多くの国々は民主主義を政治の理念とし、日本も部分的に変化に向けた動きが存在した。このため、当時の民主制とは切り離せない関係だったユーティリタリアニズム(功利主義)も広がったのだろう。 ユーティリタリアニズムでは行為の是非を人間の利益と幸福を増やすのに、どれほど寄与するかという有用性と結果によって判断している。しかし、本来「人間」を自分ではない「人」、すなわち「他人」という意味で理解するうえ、日常で自分より他人を配慮することに慣れている善良な人々の意識が極端に誤導されれば、「最大多数の最大幸福」のためなら自分を犠牲にすることもあり得るという誤りが生じかねない。かつて日本の権力者などもこれを悪用してきた。

一方、そのような不義ㆍ理不尽な世の中にも、真実の追求と生命の尊重を諦めない義人は存在する。今回、沖縄返還50周年の年に公開された映画「島守の塔」(五十嵐匠監督)の2人の主人公、島田叡沖縄県知事(萩原聖人)と荒井退造沖縄県警察部長(村上淳)は、その例である。もちろん記録としての価値(企画の時期と主人公である2人の実在の人物が持つ意味)以外にも、「島守の塔」は入場料を支払って劇場で観覧すべきさまざまな映画的美徳が目立つ作品である。

まず、ストーリーテリングとスタイルを見てみよう。同作は旧態依然の英雄叙事を止揚し、徹底した考証で時代の風俗と舞台を再現することで、当代の日常を描写する歴史映画(historical film)、その中でもドラマにより重点を置くアンソニーㆍハーベイのスタイルを発展的に継承、高い完成度を実現している。例えば「島守の塔」で過去と現在をつなぐ人物である比嘉凜(吉岡 里帆)は優しくて誠実な少女だが、戦争で両親を失ったことで米軍に対する憎しみが根強い。とはいえ、時代に翻弄(ほんろう)される自分に対する悩みからも抜け出せない。偉そうな一部の知識人の非難のように、思考停止の愚民ではなかった。その他にも監督は命の脅威にさらされている自分たちより、壕(ごう)に動員された女子生徒たちの安全を心配する善良な大人たち(負傷者たち)の姿を通じて、記録に書かれた文字や写真だけでは分からない実在的な個人は見せながら、悩みの余地を提供する。

アピール力のある設定で、感動のポイントを映画の随所に配置しているのも「島守の塔」を必見の作品にさせる魅力的な要素だ。島田知事と荒井警察部長の絆をより強固にさせる「ある素材(映画を見れば分かると思うが)」は、結末部でも観客に感動の涙を流させる役割を果たしている。重要な歴史的事実は記録映像をありのまま挿入し、判断を観客に任せながらも、犠牲になった民衆や彼らのために命をささげた義人の姿を描く時には、映画のジャンル的特性を活用し、丁寧にドラマを作り出した監督の演出力に感嘆してしまう。
 
最後に挙げたいのは、2人の義人と沖縄の人々を称えるために「島守の塔」の製作に携わったメディア5社(下野新聞社、神戸新聞社、琉球新報社、沖縄タイムス社、毎日新聞社)の思いが込められている場面である。「次に新聞を作る時は私はこの戦争のことを、何が起きたかを、本当のことを報道したい」という若手記者の言葉は、評論家よりもジャーナリストのアイデンティティーを持つ筆者の胸を打った。まさにこの部分で同作は単にお盆の法要のような慣習の次元を越えて、より多くの人々に共有され、今後も長い間繰り返して見るべき「平和文化の遺産」として位置づけられることになる。
 
映画が終わると、いつの間にかハンカチをぬらしている筆者がいた。 ただ、逆説的にもこれが単に一時的な感情ではなく、ある責任感と決意につながることがうれしい。 今夜は野球愛好家として有名だった2人の主人公が、美しい砂浜でキャッチボールをする夢を見るかもしれない(2人の母校である兵庫高と宇都宮高は、2019年に親善試合を行い、これが神戸新聞に報道されたことがある)。

ライター
洪相鉉

洪相鉉

ほん・さんひょん 韓国映画専門ウェブメディア「CoAR」運営委員。全州国際映画祭ㆍ富川国際ファンタスティック映画祭アドバイザー、高崎映画祭シニアプロデューサー。TBS主催DigCon6 Asia審査員。政治学と映像芸術学の修士学位を持ち、東京大留学。パリ経済学校と共同プロジェクトを行った清水研究室所属。「CoAR」で連載中の日本映画人インタビューは韓国トップクラスの人気を誇る。