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「ガンニバル」シーズン2より© 2025 Disney
2025.3.19
《ネタバレ解説》人喰い村で戦争勃発!?「ガンニバル」完結編はより過激に
ディズニープラスが「スター」という独自ブランドを立ち上げ、日本でもオリジナル作品を製作すると発表したのが2021年。その初期作品としてピックアップされ、22年に配信されるやセンセーショナルな内容と度肝を抜くクオリティーで話題を集めた「ガンニバル」。そのシーズン2が3月19日から配信中だ(全8話)。本稿ではシーズン1の概要を振り返りつつ、初週に配信されるシーズン2第1・2話の内容を《ネタバレあり》で紹介していく。
ディズニープラスのイメージと一線を画すハードな「ガンニバル」
そもそも「ガンニバル」はリリース時から異彩を放っていた作品だ。「スター」という冠はあれど、ディズニーがこれまで積み上げてきたブランドイメージとは一線を画すハードな内容だからだ。本作は「住民が人を喰(く)っているとうわさされる山村に赴任した警察官が壮絶な目に遭う」物語。タイトルから察せられる通り、「羊たちの沈黙」「ハンニバル」的な〝食人〟をテーマにしており、「八つ墓村」や「ミッドサマー」「グリーン・インフェルノ」にも通じる〝村モノ〟の要素も。
原作は二宮正明による同名漫画で、「ドライブ・マイ・カー」の山本晃久プロデューサー&脚本家・大江崇允、「岬の兄妹」の片山慎三監督、「誰も知らない」「ディストラクション・ベイビーズ」の柳楽優弥主演とスタッフ・キャストの布陣も作家主義的映画の雰囲気が強いものだった。
ディズニー/ピクサー/マーベル作品を擁するディズニープラスは若年層の視聴者も多いが、いまでこそサーチライト・ピクチャーズの作品も追加されなじんできたものの、「ガンニバル」シーズン1配信当時は「ディズニーがこんな過激な作品を!?」と多くのユーザーを驚かせた。
捜査中に正義感が暴走してある事件を起こしてしまい、辺境の供花村に駐在として赴任することになった阿川大悟(柳楽優弥)。妻の有希(吉岡里帆)、言葉を話せなくなってしまった娘ましろ(志水心音)を伴って移住し、村人たちからの歓待を受けるも、地元に根付いた一族〝後藤家〟が支配していた。その当主である銀(倍賞美津子)の死体が森で発見され、大悟は捜査に乗り出すが恵介(笠松将)率いる後藤家の面々に妨害され――。というのがシーズン1の大筋。
やがて後藤家が神とあがめる異形の〝あの人(澤井一希)〟や、後藤家の恐るべき真実を知る京介(高杉真宙)といった人物が登場し、物語は大悟と後藤家の村内での対立から警官隊/機動隊が介入する〝全面戦争〟の事態にまで発展。シーズン1のクライマックスは、代々行われる生贄(いけにえ)の儀式を止めようと後藤家の中枢に潜入した大悟が〝あの人〟と出くわし、安全のために避難させていた有希・ましろにも魔の手が迫る――という緊迫のシーンで幕を閉じた。
シーズン1の直後のタイムラインから始まる
そしてシーズン2第1話は、その直後から始まる。つまり「大悟VS〝あの人〟」「有希・ましろVS後藤家の刺客」だ。シーズン1視聴者ならご存じの通り、「ガンニバル」は生々しいアクションが特長。身の丈が成人男性の倍はあろうかという〝あの人〟が奇怪な動き×猛スピードで大悟に襲い掛かるシーンには戦慄(せんりつ)させられ、ホテルの一室で繰り広げられる銃を持った敵にその場にあるドライヤーや花瓶でなんとか応戦する有希たちとのバトルは緊迫感たっぷり。
終盤には走行中の車にトラックが体当たりし、車体が吹っ飛ぶ大掛かりなシーンも用意されている(ちなみにこのシーンはシーズン1第3話とリンクしている。サボテンの小ネタがニクい)。第2話になるとさらにスケールが拡大し、ついに後藤家VS警察の〝戦争〟が始まってしまう。バタバタと人が倒れ、そこかしこで血が吹き出すすさまじい銃撃戦が勃発し、映像・音響共に戦争映画のような様相を呈していく。
近年の戦争映画は「1917 命をかけた伝令」や「ダンケルク」「シビル・ウォー アメリカ最後の日」に代表されるようにリアリティー重視で緊迫感をいかに生み出せるかが肝だが、本作ではカットを割らない長回し撮影はもとより、警官隊と後藤家の戦闘の渦中を縫うようなカメラワーク、FPS(ファースト・パーソン・シューティング)的な主観映像やGoPro的な〝寄り〟の映像を駆使しており、その本気度は視聴者を画面にくぎ付けにすることだろう。
本気度は熱量、もっと言えば狂気性とも結びつくが、台風の目になっていく主人公・大悟役の柳楽が見せるエネルギーも出色。〝あの人〟と一対一で向き合っても臆することなく、ファンにはおなじみの「ボケカスが!」を叫びながら立ち向かっていったり、自分の子どもを後藤家に献上していた村民にブチ切れたりと血気盛ん。
本作は〝村モノ〟には珍しく、主人公が散々な目に遭う胸くそホラーやイヤミス(後味の悪いミステリー)的な道筋をたどらず、むしろそれ以上の狂気をもってぶっ壊す痛快さがあるが、柳楽が本シーズンも全身で体現している。後藤家も警察も手に負えない暴走警官というキャラクターに説得力を持たせ、死地に陥っても何とかしてくれそうな安心感と作品全体に推進力を与えているのだ。
さらに、「ナミビアの砂漠」「HAPPYEND」「敵」といった話題作への出演が絶えない中島歩が、新たな敵として従来のイメージを覆す怪演を披露。長髪を振り乱し、血走った目で走り回る戦闘狂ぶりはインパクト大だ。
前シーズンからの謎や真実が続々明かされる
こうしたアグレッシブな見ごたえだけでなく、前シーズンから引っ張る〝謎〟の解明や、衝撃的な真実も続々と明かされる。後藤家のボスとして立ち回りつつ、犠牲者を出さないようにひそかに動いていた恵介の出生にまつわる秘密が判明したり、後藤家のさらなる闇が描かれるなど、忌まわしさも加速。完結編である本シーズンでは銀の過去、さらには後藤家誕生の全貌が明かされるが、その布石にもなる展開が第1・2話で用意されているのだ。
また、本シリーズのテーマである〝親子の情〟の掘り下げも。第1・2話ではシーズン1でもその熱演が話題を集めた山下リオによる加奈子の見せ場があるが、大悟と家族、恵介と父(六角精児)、恵介とすみれ(北香那)の間にできた子、さらには銀と……と、さまざまな登場人物の親・子・家族への思いが交錯していく。残りのシーズンを見届けるうえで、頭に入れておきたいポイントだ。
第2話のラストでは、大悟が子どもたちを保護するも後藤家の襲撃を受けてハチの巣にされる一方、ましろが新たな生贄に!?とさらなる地獄展開に突入。第3話では予告編でも見られる「そっちが狂ってんならこっちも狂うしかねぇんだよ」と大悟がネクストレベルに突入するシーンや、出演者がお気に入りに挙げているシーンも挿入されるなど、さらにボルテージが上昇していく。より過激にパワーアップした本作を楽しんでほしい。
「ガンニバル」シーズン2はディズニープラスのスターで独占配信中。