「マイスモールランド」の川和田恵真監督

「マイスモールランド」の川和田恵真監督

2022.5.05

インタビュー:川和田恵真監督「マイスモールランド」居場所求めるクルド難民の少女 自分を重ね描いた

勝田友巳

勝田友巳

はざまに生きる苦悩みずみずしく




きっかけは銃を持つ女性兵士の写真だった

「マイスモールランド」は、是枝裕和監督の下で修業した新人、川和田恵真監督のデビュー作だ。日本で暮らすクルド難民の苦境と正面から向き合い、日本とクルドのはざまで生きる少女の苦悩をみずみずしく描く。自身の境遇を重ねたという川和田監督が、作品への思いを語ってくれた。
 
クルド難民に興味を持ったのは、2016年に見た1枚の写真からだったという。「イスラム国と戦う女性兵士の写真でした。どうして銃を持って戦うのか知りたくて調べ始めたら、日本にもクルド人が1500~2000人も暮らしていると分かった。彼らは難民申請を認められず、居場所を求める静かな闘いの中にいる。もっと知りたい、伝えたいと思いました」
 
主人公はクルド難民一家の高校生の長女サーリャ(嵐莉菜)。大学進学を目指していたが、難民申請が不認定となって在留資格を失ってしまう。一家は就労も県をまたぐ移動も制限され、やがて父親が施設に収容されて、サーリャは一家を支えなければならなくなり、たちまち困窮する。


 

納得いかない入管制度「人道的にあってはならない」

日本の入管制度について調べ、クルド人家族の取材を重ねると、制度についての疑問は深まるばかり。「なぜこうなっているのか、調べても人に説明しようとしても、納得がいかない」。日本では出入国在留管理庁が難民認定の審査と不法滞在の取り締まりの両方を管轄し、その制度上の問題が大きいと指摘する。「難民の中にも、日本しか知らない人、日本で生活の基盤を作って暮らしている人がいる。国は生活の自由を奪って追い出そうとしているとしか見えない」。サーリャの父親は日本で仕事を得て家族を支え、妹と弟は日本語しか話せない。「人道的にはあってはならないと思う」という実態を、物語に映し出した。
 
映画は、アイデンティティーを求めるサーリャの苦悩にも焦点を当てる。サーリャは親しい友人にも出自を明かせない一方で、クルドの文化や宗教に従うよう強制する周囲にも違和感を覚えている。日本人高校生の聡太(奥平大兼)と出会って思いを通わせるが、2人の仲は制度に阻まれるだけでなく、サーリャの父親にも交際を禁じられてしまう。
 
サーリャの苦悩には、川和田監督自身の体験も投影した。英国人の父親と日本人の母親の間に生まれ、日本で育った。「自分もミックスルーツで、内面は日本人と思う部分が大きいけれど、見かけから外国の人と思われる。今でも『日本語上手だね』と言われて、そのたびに自分がなに人なのか、居場所はここじゃないのかと感じてしまう。居場所を求めて闘うクルドの人々と、置かれている状況の苦しさは違ってもつながるものを感じました」


 

フラットな若者の視点に希望託し

その中で、聡太は「希望」だという。「なに人という枠にこだわらずにサーリャを見つめる存在。ボーダーを超えた人間との出会いを描くのが重要だと思っていた」。聡太の人物像は、奥平との会話の中で固まった。「脚本を読んだ奥平くんが、主人公は考えすぎと思ったと言ったんです。フラットな視点にヒントをもらいました」。そのセリフを脚本にも取れ入れた。聡太の、そして奥平の視点が、世の中を変える一歩になるかもしれないと思いを託す。
 
その象徴が、聡太がサーリャたちと絵を描く場面だ。「カラフルな色で、カテゴリーやジャンル、ボーダーを超える表現ができる」。実はここも、絵が好きという奥平にヒントをもらったそうだ。
 
是枝監督らが作る制作者集団「分福」に所属。監督助手などを務めて映画作りをつぶさに見て、多くを吸収した。「マイスモールランド」製作にあたっても多くの支えを得たという。骨太の作品は全国で公開される。
 
「これが最後かもしれないと思って、現代社会にも自分の内面的にも、必然性のある物語を作りたかった。この映画がこの規模で製作、公開できるのは奇跡的だと思う。だからこそ、多くの人に見てほしい。クルド人だけではなく、いろんなルーツを持つ人、マイノリティーの人たちの物語が増えるきっかけになったらうれしいです」
 


コラム「『居場所、矛盾、時間、家族』和合由衣が見た『マイスモールランド』」はこちらから。

「シネマの週末:マイスモールランド 隣に生きる難民の鼓動」はこちらから。

2022年5月6日、東京・新宿ピカデリー、大阪・大阪ステーションシティシネマほか全国で公開。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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