「ペルシャン・レッスン 戦場の教室」HYPE FILM, LM MEDIA, ONE TWO FILMS, 2020 ©

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2022.10.31

普通の人が鬼にもなる怖さ「ペルシャン・レッスン 戦場の教室」:英月の極楽シネマ

「仏教の次に映画が大好き」という、京都・大行寺(だいぎょうじ)住職の英月(えいげつ)さんが、僧侶の視点から新作映画を紹介。悩みを抱えた人間たちへの、お釈迦(しゃか)様のメッセージを読み解きます。

英月

英月

私が米国に住んでいた時のことです。英語を母国語としない者同士で、たとえ片言でも相手の国の言葉を知っていると関係が急に近しくなることがよくありました。

この映画に登場する、ナチス親衛隊のコッホ大尉(ラース・アイディンガー)と、強制収容所に連行されたユダヤ人ジル(ナウエル・ペレーズ・ビスカヤート)もそうでした。時は第二次世界大戦中。戦後は兄がいるテヘランで料理店を出そうと、ペルシャ語を学びたい元料理人の大尉。そして、銃殺を免れるため、とっさにペルシャ人だとうそをついたジル。立場を超えて出会った2人は、ペルシャ語を教え、学ぶことを通して、関係を深めていきます。

しかしジルが教えていたのは、でたらめの言葉でした。うそがばれると殺されるため、命をかけて偽の言葉を生みだし続けるジル。そして、その言葉を熱心に学ぶ大尉。毎日、行われる授業。言葉を作ることはできても、それを記憶することの難しさ。ジルは次第に追い詰められていきます。

さて、生殺与奪の権を振るうナチス、それに従うことしかできないユダヤ人収容者は、敵と味方のように決して交わることがありませんでした。しかし偽のペルシャ語という言葉によって相手を知ることになったジルは、鬼のような敵だと思っていた大尉の別の顔を知り戸惑います。善人ともいえるような普通の人が、権力を手にすることで、簡単に鬼になってしまう。それは大尉だけではありません。泣く子も黙るナチス親衛隊も普通の人たちなのです。人間というものの事実を突きつけられたようで、とてつもない怖さを覚えました。11月11日から、東京・kino cinema立川高島屋S.C.館ほかで公開。順次全国でも。

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ライター
英月

英月

えいげつ 1971年、京都市下京区の真宗佛光寺派・大行寺に生まれる。29歳で単身渡米し、ラジオパーソナリティーなどとして活動する一方、僧侶として現地で「写経の会」を開く。寺を継ぐはずだった弟が家出をしたため2010年に帰国、15年に大行寺住職に就任。著書に「二河白道ものがたり いのちに目覚める」ほか。インスタグラムツイッターでも発信中。Radio極楽シネマも、好評配信中。