私はおせっかいが好きだ

私は、おせっかいな人間だ。好きな人が顔を曇らせていると「大丈夫？」と原因を聞き出すまで気が済まない。あまりにしつこいせいで、面倒くさがられることもあるが、やめられない。こういうおせっかいは結局、自己満足だ。相手がどう思うかより、自分がしたいという気持ちが先走っているからだ。
 
思えば、私の母もおせっかいな人である。私がせきをすればのどあめを取り出し、おなかをさすれば胃薬を差し出そうとする。寒い日に実家から自宅へと帰ろうとしたら、カイロをお腹に貼るよう指示付きで渡され、母のマフラーをなかば強引に巻かれた。ちなみにこれは、30歳を超えた最近の話だ。
 
時におせっかいすぎると感じることもあるが、私はそのおせっかいが好きだ。
愛されていると感じ、安心するからだ。私のおせっかいが愛情だと伝わっているのかはさておき、映画「エゴイスト」は、「愛とは何なのか」という正解のない問いに、ひとつの優しい答えを見せてくれる映画だ。
 

自分のわがままだから

主人公の浩輔は、龍太に対して月に10万円渡す約束をした。そして、後に龍太の母・妙子にもお金を援助する。龍太も妙子もお金を受け取ることに、はじめはちゅうちょしていたが、最終的に受け取ったのはどんな思いからだったのか。妙子がお金を受け取ったシーンに注目したい。
 
妙子は、浩輔が差し出したお金の入った封筒に驚き、すぐに突き返した。穏やかな口調だが、かたくなに拒否する妙子に、浩輔はどうにか受け取ってもらおうと、龍太にもお金を渡していたことを明かす。
 
浩輔の説明を聞いても、妙子は受け取ろうとしない。遠慮というよりは、倫理に反することへの強いノーの姿勢を示していた。何と言ったら妙子が受け取ってくれるのか分からず、言葉に詰まる浩輔。譲らない2人の間に、緊張感と気まずさが漂う。向き合って座っているのに心の距離はどんどん離れていくようだ。自分のわがままだから･･････という言葉を絞り出すように口にした浩輔。その顔をじっと見つめた妙子は、ついにお金を受け取る。
 
このシーンで妙子は、施しを受ける恥を忍び、お金と一緒に浩輔の気持ちを受け取ったのだと思う。浩輔の行き場をなくした龍太への愛や、妙子への思いやりを受け入れたのだ。ここで救われたのは、妙子ではなく浩輔だったのではないだろうか。妙子は受け取ることで愛を示し、気持ちを受け入れてもらえた浩輔は救われた。
 

愛がなんなのか、よくわからない

浩輔が妙子に言った「愛がなんなのか、よくわからない」という言葉には、彼の葛藤があふれ出していた。浩輔はお金を渡す以外にも、自分なりの愛情表現をたくさん見せていた。眠っている龍太の手にハンドクリームを塗ったり、ジャケットを渡したり。妙子に対しては、腰をマッサージしたり、玄関先の枯れた花を植え替えたり。
 
浩輔の言葉に対して「あなたに分からなくてもいいの。私たちが受け取ったものが愛だと思っているから」と妙子は返した。浩輔にとって、この言葉がどれほどの救いだったかと考えると胸が熱くなる。愛がなんなのか、そこに正解はない。物に限らず、言葉や行動など、無限の形で表現することができる。誰にも見せずに、言わずに、ひっそり抱えておくことだってできるだろう。
 
しかし、自分が送った愛に大切な人が気付き、受けとめてくれることほど幸福なことは、きっとない。
 

エゴイストの意味とは

この映画を見終わって、とてもピュアな余韻に浸りながら、もう一度「エゴイスト」の意味を考えた。好きという感情はエゴに満ちている。自分が、一緒にいたい。自分が、役に立ちたい。という自分の気持ちからくる欲求が多いからだ。それならば、この世はエゴイストであふれている。おせっかいな私もエゴイストだ。
 
私たちは皆、そんな自分自身のエゴイストな一面と向き合いながら、生きている。時にそのエゴを受け入れてもらえず、勝手に傷ついたりしながら。だからこそ、映画「エゴイスト」で描かれたひとりのエゴイストの愛の物語に、感動が止まらないのだ。

東京テアトルほかで公開中。