毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.5.27
帰らない日曜日
1924年のイギリス。その日はメイドが年に1度里帰りできる母の日だった。孤児院育ちのジェーン(オデッサ・ヤング)に、秘密の関係を続ける近隣家の後継ぎポール(ジョシュ・オコナー)から電話が入る。ポールは幼なじみエマとの結婚を控えるが、屋敷でジェーンと愛し合い、エマらとの昼食会に向かった。
第一次世界大戦で次々と息子を亡くした名家の悲しみを背景に、禁断の恋とジェーンのその後を描く。緑豊かな田園風景や水辺はうっとりするほど美しくきらびやか。2人のエレガントな官能を描きつつも、エヴァ・ユッソン監督がこだわったのは作家として自立していくジェーンの二十余年後と老年の姿だ。
愛と喪失を超えて自らの道を模索し歩きだす女性の意志の強さを打ち出そうとする。ただ、作家としての歩みを映す描写はやや単調で、その日の衝撃もコスチュームものとしての枠を逸脱していない。自ら道を切り開いていく女性像に、より重きを置くべきだったのではないか。1時間44分。東京・新宿ピカデリー、大阪・なんばパークスシネマほか。(鈴)
ここに注目
大きく映し出される目や口や指の動き、多くはない会話とその声、それら一つ一つから、登場人物の心情やそれぞれの立場、関係性、過去までもが伝わってくる。細やかに美しく描かれた1日の出来事。そこから見えてくる彼女たちの人生が、静かに強く、心に響いてくる。(久)