「ターミネーター2」より

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2024.9.07

「ターミネーター」シリーズの根幹にあるものとは⁈ シリーズの変遷を振り返り理解を深めよう

1984年の「ターミネーター」公開から40年!アーノルド・シュワルツェネッガーのブレークと共に世界的なヒットと続編の製作、そして2024年はシリーズ初のアニメ作品も配信になるなど、今もなお愛されるSFアクション映画の金字塔の「ターミネーター」シリーズを特集します! 

ヨダセア

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「ターミネーター 0」が、8月29日(木)〝審判の日〟よりネットフリックスで世界独占配信中だ。今作は1997年の日本を舞台にしたSFアクションであり、「ターミネーター」シリーズ初のアニメーション作品だ。
 
「ターミネーター」が公開から40周年を迎えるタイミングでの本特集、84年の第1作から第6作「ターミネーター ニュー・フェイト」(2019年)まで、「ターミネーター」シリーズ全6作について、シリーズの根幹にあるテーマや魅力、変遷を振り返る。
 

楽しむカギは「運命との対峙」と「機械と人間の感情」

 このシリーズを楽しむカギは、「運命との対峙(たいじ)」、そして「機械と人間の感情」だ。最新作「ターミネーター 0」においてもそれは継承されるため、シリーズを通してそれらテーマがどのように描かれてきたかを振り返るのも楽しみ方のひとつだろう。
 
第6作のタイトルでも「fate」(運命)という単語が使用されたように、このシリーズにおいては登場人物の「運命との対峙」が物語の中心にある。まだ見ぬ運命を他人の言葉だけで信じて動けるか。すでに運命が決まっているのに、熱意をもって行動できるか。〝あらかじめ未来が知らされる〟という前提により、運命に困惑して逃げたくなったり、運命を変えようとあらがったり、変わらぬ運命に諦観的になったり、運命をまっとうするために覚悟を決めたりといったドラマが生まれている。
 
そして、第2作以降は人間を守るターミネーターの登場により、「機械と人間の感情を通した関係性」もドラマの中心にる。

機械に感情は生じ得るか。プログラムが生んだ〝感情と同じような思考の形〟をどこまで〝感情〟と呼ぶか。リドリー・スコットの「ブレードランナー」(82年)やスティーン・スピルバーグの「A.I.」(01年)、最近ではギャレス・エドワーズの「ザ・クリエイター/創造者」(23年)まで、この疑問は長きにわたる課題だ。
 
ターミネーターはあくまでプログラムで動く機械だが、それが人の形をして人の言葉で話しかけてくれば、どこか人間を相手にするような感覚が生じるのは自然なこと。そんな機械を相手に、人間がどのような感情を持つようになるかという変化が(特に2作目、6作目で)丁寧に描かれる点が、単なる〝人間VSロボット戦争〟に終わらない魅力をシリーズに与え、人の心をつかむのだ。
 

大ヒットした「ターミネーター」はその後のSF映画に影響を与えた

 ジェームズ・キャメロン監督による第1作および第2作はシリーズでも特に、映画史に残る不朽の名作として語り継がれている。
 
第1作「ターミネーター」の公開は84年。ロボット系のSF映画でいうと、「ブレードランナー」(82年)の2年後、「ロボコップ」(87年)の3年前の公開だ。初期の「スター・ウォーズ」作品(77〜83年)も含め、これら80年代付近の一連のSF作品が、その後のSF映画の脚本や美術に影響を与えたことは言うまでもない。
 
この84年というタイミング、世相を色濃く映してい。米ソ冷戦中だった83年には、人工衛星による監視システムが「米国からソ連にミサイル攻撃が行われた」との誤反応を示し、まさに核戦争が起きてもおかしくない事態に陥った。米ソが競い合って技術を発展させ、〝信頼してよいのかわからない機械への疑念〟〝核戦争(第三次世界大戦)の恐怖〟がまん延した当時、核戦争で人類が壊滅した未来から機械が命を狙ってやってくる「ターミネーター」のスリルは人ごとでなかったことが想像できる。
 
事実「ターミネーター」は大ヒット。過去から親が子を守り、未来から子が親を守るという円環構造も作品をドラマチックに仕上げたといえよう。
 

「機械」の描き方で深みが増した「2」、衝撃の展開もシリーズの流れを踏襲した「3」

 「ターミネーター2」(91年)では「機械VS人間」だけでなく、「味方の機械VS敵の機械」という構図も追加。アーノルド・シュワルツェネッガー演じる「T-800」は人間を守り、人間のような仕草を見せるサイボーグで、人々が愛着を持ち、シリーズが続く要因の一つになった。
 
冷徹な「T-1000」との戦いだけでなく、未来のために自ら犠牲になるT-800(親指を上げて溶鉱炉に沈むターミネーター)と、別れを惜しんで涙を流すジョン・コナーなど、人間と機械の垣根をえたエモーショナルさが加わり、物語の深みより増した。
 
女性のターミネーター(T-X)のシリーズ初登場も話題となった「ターミネーター3」(03年)は、観客の好みが大きく分かれる作品だろう。〝結局のところ、人類がほぼ滅亡することは遅かれ早かれ避けられない〟という結末は、運命と戦ってきた第2作までの努力を無に帰すような衝撃があり、この絶望感にショックを受ける観客もいたのではないか
 
とはいえ〝未来が変わらない〟のも納得はできる理論であり、その運命に対してジョンや新キャラのケイト、T-850(シュワルツェネッガー)がどう対峙するか、というドラマが描かれ、これまでのシリーズの流れを真摯(しんし)に踏襲したともいえる。
 

「ディストピア感」が漂う「ターミネーター4」

 「ターミネーター4」(09年)は、シリーズの顔ともいえるシュワルツェネッガーが唯一(特殊効果による短時間の登場を除き)登場しないことをはじめ、従来の作品とかけ離れた空気感によってシリーズの中でも〝浮いている感〟がある
 
今作が独特であることには理由がある。まず、他の作品が〝文明崩壊前〟の戦いをメインに描くのに対し、今作はシリーズで唯一〝荒廃後の未来〟がメインの舞台だ。まだ見ぬ未来のために戦った従来の作品と、絶望後にわずかな希望をつなごうとして、過去のために使命をまっとうする今作の空気感が異なるのは然だろう。ジョン・コナーの性格も根幹から変わったかのように変化している。
 
さらに、今作は当初新たな3部作の序章として製作されたため、違いを明確にした意図もうかがえる。音楽はダニー・エルフマンが手がけ、映像の彩度が全体的に低く、核戦争後の世界ならではの無機質で暗澹(あんたん)とした空気が漂う〝ディストピア感〟はシリーズ随一だ。
 
だが、その無機質な世界観にたがわず物語もどこか淡々としてエモーショナルさに欠け、過去3作で人の感情の流れに寄り添ってきたシリーズの続編としては、その単調さはややウケが悪かったと言える。
 
続編の製作前に、製作会社ハルシオン・カンパニーが破産申請し、上記の3部作計画も中止となったことで、今作の空気感は〝シリーズ唯一〟となった。
 

衝撃的なジョン・コナーの扱いだった「ターミネーター:新起動/ジェニシス」

 そこで心機一転、誕生したのが「ターミネーター:新起動/ジェニシス」(15年)。84年にターミネーターが現れるシーンは第1作の映像を忠実に再現していたり、未来の人間収容施設が「4」のものに似ていたりと、新しい物語をつむぎながらもこれまでのシリーズへの目配りを随所で行った作風からは、シリーズの新たな一歩として懸命な努力を感じる。
 
カイル・リース(ジェイ・コートニー)が転送された先の84年が従来の物語と異なり、新たなサラ・コナー(エミリア・クラーク)の〝過去が変わるなら未来も変わる〟とのセリフで新たな未来を目指す今作は、明確にこれまでと異なる物語を作り上げようとした。しかし、衝撃的なジョン・コナーの扱いなど、新たな方向に振り切った物語は少なからずファンの反感を買ったようだ
 
シュワルツェネッガーの復帰、豪華なキャスティングで、世間の注目浴びたが、〝新しすぎる〟脚本が広く受け入れられ、またも続編製作の機会を失った。
 

「ターミネーター ニュー・フェイト」で評価の挽回に成功

 それらを受けて、「ターミネーター ニュー・フェイト」(19年)では大胆かつ大幅な〝原点回帰〟に踏み切った。「3」以降の物語をなかったことにし、「ターミネーター2」の続編として新たな物語をつむいだのだ
 
話題になったのはリンダ・ハミルトンがサラ・コナー役復帰したこと。サングラスをかけたハミルトンが、シリーズの名せりふ「I’ll be back」を披露するなど、「ターミネーター」「ターミネーター2」の新たな正統続編であることを強く感じさせた。
 
シリーズ本来の〝執拗(しつよう)に追ってくる機械の恐怖〟〝感情のようなものを見せる機械と人間の交流〟という魅力を取り戻し、スリルと感情移入の双方を大切にした作風に仕上がった「ニュー・フェイト」は批評家から一定の支持を得て、「3」以降シリーズを経るごとに落ち込んでいた評価を挽回することに成功している。
 
歴史に残る栄光、複数回の失敗を経ながら、今もなお多くの映画に影響を与え続け、シリーズ初のアニメーション作品の製作に至った「ターミネーター」シリーズ。日本を舞台に、これまでのテーマを踏襲しながら新たな描き方にも挑戦した「ターミネーター0」も、ぜひシリーズの流れと共にお楽しみいただきたい。

<画像使用作品>

「ターミネーター2」
4K Ultra HD Blu-ray:7480円(税込み)
発売・販売元:KADOKAWA
※2024年8月現在の情報です。

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ライター
ヨダセア

ヨダセア

フリーライター。2019年に早稲田大学法学部を卒業。東京都職員として国際業務等を経験後、ライター業に転身。各種SNS(X・Instagram)やYouTubeチャンネル「見て聞く映画マガジンアルテミシネマ」においても映画や海外ドラマに関する情報・考察・レビューを発信している。

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