©2022映画「島守の塔」製作委員会

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2022.7.23

パラリンピック開会式出演の和合由依さんが見た映画「島守の塔」

第二次世界大戦中の最後の官選沖縄知事・島田叡、警察部長・荒井退造を主人公とした「島守の塔」(毎日新聞社など製作委員会)が公開される(シネスイッチ銀座公開中、8月5日より栃木、兵庫、沖縄、他全国順次公開)。終戦から77年、沖縄返還から50年。日本の戦争体験者が減りつつある一方で、ウクライナでの戦争は毎日のように報じられている。島田が残した「生きろ」のメッセージは、今どう受け止められるのか。「島守の塔」を通して、ひとシネマ流に戦争を考える。

和合由依

和合由依

戦争は何もかも壊した

戦争ってなんで起こるの?
どうやったらそうなるの?
 
沖縄戦、平和で幸せな日常が壊れました。壊れたのは街だけではない。沖縄の人々の心や、感情。もう、何もかもが壊れたのです。〝何もかも〟です。


 

これは、寂しいのか。怖いのか。心配なのか

時は第二次世界大戦。沖縄県民を守ろうと努力した2人の内務官僚がいました。1人は、官選の沖縄県知事の島田叡。もう1人は警察部長の荒井退造。
 
「県民の命を守ることこそが私たちの使命である」と2人は決意し、苦戦しながらも、県民の命を第一に考えて行動。空爆や銃の音が鳴り響く中、県民と共に逃げていきます。
 
2人が突き進んでいく姿は、どこから見ても前向き。「戦争」という大きな戦いの中で、恐怖や、家族と会えない寂しさを抱えていたと思います。そんな状況の中でも、2人が目指しているのは先の見えないゴール。前に向かって進むのです。
 
いかにも、県民を一人でも多く救いたい、という感情が、表情からも、背中からもあふれ出ていました。もし、この2人の役割を違う人物がやっていたら、沖縄の戦争はもっと違う形だったのかもしれません。
 
県民は県のトップの人たちを頼りに動きます。そうすることしかできないのです。私が見ている限り、島田はその期待に応えていたように思えました。
 
「あと少しです。一緒に頑張りましょう」
 
画面から目をそらすことはありません。私は、ただひたすらに島田と荒井の顔を見つめます。物語が進んでいくにつれ、私の心臓は「ドクドク」と音を発します。振動が体全体に響き、私は「落ち着け」と自分に言い聞かせ、息を吸う。
 
そんなことを考えていたら、自分の太ももには「ぽたぽた」と涙が落ちていく。これは、寂しいのか。怖いのか。心配なのか。
 
自分でもよくわかりません。視界がぼやけています。もう一度、呼吸をします。
 

何度も「人間の美しさ」を思い出させてくれる

ふと、私は考えます。買い物に行っている時。友達と笑って会話をしている時。家族と一緒にいる時。こんな時に銃が自分の目の前に突然現れたらどうだろうか。私ならきっと、逃げることを諦めてしまうでしょう。
 
ただ好きなことをしている人間に、なぜ人間は食らいついていくのでしょうか。みんな同じ。みんな人間。みんな仲間なのに。みんな、自由に生きたいだけなのに。
 
「島守の塔」の中で何度も流れてくる音楽があります。そのメロディーが戦争の悲惨さを伝えてくる。しつこいくらい、何度も流れてきます。でも、そのしつこさが、何度も「人間の美しさ」を思い出させてくれる。生きているから、痛みも感じるし、喜びも感じる。そこに人間同士の愛があるから、感情が生まれる。
 
このメロディーが流れて、頭の中でそんなことを思う度に、「生きること」について考えさせられる。
 

今ではあり得ないことが、過去にはあり得た

「島守の塔」で描かれている第二次世界大戦のように、戦争が頻繁に行われていた時代では、国民が皆、「お国のために」と言って戦っていた。そんな時代を生き抜いた、比嘉凜を演じる吉岡里帆さんの演技ひとつひとつからも、戦争の影響の悲惨さを感じる。
 
第二次世界大戦中、心配になり気持ちが暗くなっている家族に、「(いつかきっと)神風が吹く(から)」などと声をかけ、戦争を一緒に戦っている仲間を支える凜。
 
戦前の軍国教育を受けていた凜は、国のためにできることを精いっぱいに尽くします。当時はそのようなことが当たり前でした。今ではあり得ないことが、過去にはあり得たのです。そんな姿を見て、とても胸が痛くなりました。
 
でも、凜にとってそれが当たり前のことだったのでしょう。そんな〝当たり前〟が作られていたことに、戦争の恐ろしさを感じました。国が滅びるだけでなく、戦争の影響で生活が変わり、教育が変わり、人が変わっていく。戦争というものがどれだけ人間に害を与えているか。
 
でも、当時の凜にとって、そんな生活は当たり前。「お国のために命をかける。そう教わってきた」。国のために死ぬ。それは、凜にとってできる最大の仕事でした。

 
そんな凜に島田は声をかけます。「生きるんや。生きて帰るんや」。島田の言っていることがよくわからない凜。なぜ、そんなことを言うのか。今まで、国のために命をささげると教えられてきたのに。
 
命の尊さを理解することができない凜。
 
〝当たり前〟の基準が違うと、見える景色が変わっていく。
 
第二次世界大戦を生き抜き、老人になった凜(香川京子さん)は、島田と荒井のお墓の前で手を合わせ、「私、生きましたよ」と、言う。戦争を乗り越えた凜の背中からは、たくさんの感情があふれ出す。
 

戦争をしたことがない。だから知らなくていい。そんなことはありません

この文を書いている私は、第二次世界大戦について歴史の授業でちょうど勉強しているところです。授業を受けていると「島守の塔」と重なる場面がいくつもあり、胸が痛くなります。悲しいのです。
 
教科書にある写真を私は眺めます。一度見ると、そこから目を離すことができません。苦しいです。
 
私は生きている間に、戦争を体験したことがありません。それは本当に幸せなことです。私が生きているこの14年間、平和な日常が続いていることに感謝します。
 
戦争を体験したことがない私にとって、この映画を見た時間は、濃厚なものとなりました。戦争をしたことがない。だから知らなくていい。そんなことはありません。
 
知らないからこそ、体験したことがないからこそ、学んでみんなに広めていく必要がある。
 
私は、そう思います。
 
映画「島守の塔」には、第二次世界大戦を生きた人々のストーリーがあります。それぞれ一人一人にストーリーがあるのです。凜や、島田、荒井以外にも、第二次世界大戦という大きな戦争の中で、一生懸命に生きた人々が数えきれないほどたくさんいます。

 
戦争を体験したことがある方でも、そうでない方でも、映画館の巨大なスクリーンで、島田と荒井の生き様を見ていただきたいです。
 
そして、命の尊さ。何よりも「命は宝」なのだということを、島田は私たちに伝えてくれています。

島守の塔

県民の4人に1人、約20万人が犠牲となった「沖縄戦」。「命(ぬち)どぅ宝、生きぬけ!」と叫んだ 2人の官僚と、「沖縄戦」に翻弄される沖縄県民。それぞれの苦悩と生きることへの奮闘を描き、沖縄本土復帰50周年の節目に「命の尊さ」を次世代に継承する映画が誕生しました。

ライター
和合由依

和合由依

2008年1月10日生まれ。東京2020パラリンピック開会式では、これまで演技経験がなかったものの、片翼の小さな飛行機役を演じ切り、世界中の人々に勇気と感動を与えた。羊膜索症候群、関節拘縮症による上肢下肢の機能障害を抱える。中学校では吹奏楽部に所属しユーフォニアムを担当。趣味は映画鑑賞のほか歌や絵画。2021年毎日スポーツ人賞文化賞を受賞。

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