「ダーリンズ」の一場面

「ダーリンズ」の一場面

2023.4.24

ボリウッドのスター、アーリヤー・バット主演のブラックコメディー「ダーリンズ」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

村山章

村山章

昨年10月に公開されたインド映画「RRR」が今もロングラン上映中だ。S・S・ラージャマウリ監督の前作「バーフバリ」2部作に引き続き、あふれんばかりのサービス精神を注ぎ込んだエンタメの権化のような大作で、リピーターが続出するのもよくわかる。かくいう筆者も都合3回は映画館に足を運んでいる。まだ見ていない人にはゼヒお試しあれと強く推薦したい。
 
ただ、男2人の熱い友情を描いた物語ということもあり、どうしても女性キャラクターが添え物的なポジションに甘んじてはいる。その点、男らしい英雄を描いたファンタジーだった「バーフバリ」の方が、実は女性キャラを中心に据えていて、現代的な批評性を備えていたといえる。
 
モチーフやテーマが違うのだから致し方ないとはいえ、主人公のひとりラーマの恋人シータ役に、ボリウッドの大スター、アーリヤー・バットを起用したのだから、もうちょっと活躍の場がほしいと思ってしまったのも正直なところだ。
 
ちなみにアーリヤー・バットを〝ボリウッドの大スター〟と書いたが、〝ボリウッド〟は広いインドでもムンバイ(旧ボンベイ)を中心とするヒンディー語文化圏の映画産業を表す言葉。「RRR」はインド南部のテルグ語圏の〝トリウッド〟で作られた作品で、アーリヤー・バットはいわばボリウッドから招かれた特別ゲストだったのである。
 
とはいえ「RRR」でアーリヤー・バットを知り、その美しさに魅了されたという人も多いだろう。そこでより彼女のことを知ってもらうためにオススメなのが、Netflixで配信されているブラックコメディーの「ダーリンズ」だ。
 
アーリヤー・バットは主演だけでなくプロデューサーも務めており、ドメスティックバイオレンス(DV)にさらされた主人公の復讐(ふくしゅう)を描いたメッセージ性の強い作品。彼女はジェンダー問題に関してまだまだ旧態依然としているインドにおける〝声を上げる女性〟なのだ。
 

エンタメ性を保ちつつも、DVという社会問題を提起する

 アーリヤーが扮(ふん)しているのは、熱愛中の恋人からプロポーズされた女性バドル。バラ色の新婚生活が始まるはず……だったのに、ふたを開けてみれば、夫のハムザは酒に酔うと妻に手をあげる暴力男。日々生傷が絶えないが、酔いが覚めれば殊勝に謝る夫のことをどうしても許してしまう。しかし、ようやくかなったと思った望みがついえた時、バドルはハムザの殺害をそそのかす母親の協力を得て反撃に打って出る。
 
さすがにこのモチーフではインド映画といえども歌ったり踊ったりはしないが、挿入歌が流れてバドルの心情を歌うミュージカル的な演出など、インド映画らしいエンタメの体裁は保っている。しかし、冒頭のベタでハッピーなプロポーズシーンがその後の展開の痛い皮肉になっていたり、同じアパートに住む女性たちがDVの事実を知りながら、他人の家庭のことだからと何もできずにいるなど、厳しい現実が端々に織り込まれている。
 
さらに物語は、女性たちに向けられる暴力の連鎖にも踏み込んでいく。後半は夫の殺害計画をめぐるドタバタ劇に転じるのだが、素人犯罪者であるバドルや母親のあたふたする姿で観客を笑わせたとしても、深刻な社会問題に踏み込む作り手の覚悟は常に伝わってくる。
 
夫役のビジャイ・バルマは、どうしても暴力衝動に駆られてしまう揺らぎのある人物を演じているが、同情の余地はあっても決して赦免に値しない悪役として描ききった姿勢も、DVという問題に向き合うための覚悟のように感じた。
 
ちなみに本作のプロデューサーのひとりであるガウリ・カーンは、ボリウッドのキングと呼ばれるトップスター、シャー・ルク・カーンの妻であり、夫婦で設立した製作会社で本作を手がけている。映画の冒頭にはシャー・ルク・カーンへの謝辞もあり、業界の大物のバックアップがあったからこそ実現にこぎつけることができたのだろう。どうかアーリヤー・バットがこの意欲作に込めた思いを受け取っていただきたい。
 
Netflix映画「ダーリンズ」は独占配信中


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ライター
村山章

村山章

むらやま・あきら 1971年生まれ。映像編集を経てフリーライターとなり、雑誌、WEB、新聞等で映画関連の記事を寄稿。近年はラジオやテレビの出演、海外のインディペンデント映画の配給業務など多岐にわたって活動中。

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