メルボルン上映時の「ゴジラ」ビジュアル=梅山富美子撮影

メルボルン上映時の「ゴジラ」ビジュアル=梅山富美子撮影

2025.1.22

「ゴジラ」「コナン」、黒澤明に「PERFECT DAYS」、2024年豪上映の日本映画事情を振り返る

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

筆者:

梅山富美子

梅山富美子

日本映画は、世界でどう見られているのだろうか。「ゴジラ」に「名探偵コナン」と日本の人気コンテンツが愛されている瞬間を筆者が住むオーストラリアで目撃した。日本とはまた違った観客の反応も含めて、昨年オーストラリア、メルボルンの映画館で見た日本映画を紹介する。


アニメ、ドラマ、クラシックムービー、幅広く公開された日本映画

2024年、メルボルンでは幅広いジャンルの日本映画が公開された。オーストラリア各地に展開するシネコンでは、ハリウッド映画やイギリスの映画が上映されるのが主流。そのなかで、「『鬼滅の刃』絆の奇跡、そして柱稽古へ」、「劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦」「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」といった日本のアニメ映画が封切られ、独立系映画館では「怪物」「悪は存在しない」「PERFECT DAYS」などが上映された。

また、10月から11月にかけて「ジャパン・フィルム・フェスティバル」が行われ、同時期に「七人の侍」公開70周年を記念した黒澤明特集、さらに、「ACMI(オーストラリア映像博物館)」では11月にはゴジラ特集といったイベントも実施された。ミニシアターでは、1年を通してさまざまな国と地域の映画をフィーチャーしているが、24年は特に日本の映画が大きく注目を浴びた年だと感じる。


「ゴジラ」の客層の幅広さ

筆者が見たなかで、映画館と観客の熱量を感じたのは「ゴジラ」(1954年)、「PERFECT DAYS」、「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」。残念ながら映画館で鑑賞することができなかったが、見に行った人の感想を聞くと「鬼滅の刃」「劇場版ハイキュー!!」も盛り上がっていたという。

「ゴジラ」を鑑賞したのは、映像博物館で行われたゴジラ特集の上映。館内にはゴジラのパネルや展示が設置され、Instagramのストーリーでも上映を告知する広告を展開するほど「ゴジラ」への力の入れようが半端なかった。70年前の映画にもかかわらず、「ゴジラ-1.0」やハリウッド版ゴジラの影響なのか、客層は、親子連れからシニア層、ゴジラのTシャツを着ている〝ガチ〟ファンなど幅広い。

満員の客席で、観客はゴジラの登場に声を出してリアクション。現代のCG技術が駆使された映画を見てきた観客にとって、特撮で撮影されたゴジラは新鮮だったようで、ゴジラのアクションに良くも悪くも笑いが起こっていた。また、怪獣映画、娯楽映画を求めにやってきた観客にとって、破壊兵器を扱うことの恐ろしさについて重く強く訴えかけ、骨太な物語が衝撃だったようで「思ったより暗かった」「シリアスな映画」といった感想が耳に入った。


「黒い雨」「ドライブ・マイ・カー」は特集での上映

同時期にあった今村昌平監督の特集で、戦争と被爆による悲劇を描く「黒い雨」(89年)を見たときは、思わぬシーンの笑いに衝撃を受けた。戦争による後遺症で、バスのエンジン音を聞くと「敵襲!」と叫んでしてしまう悠一(石田圭祐)に、大きな笑いが起こる。個人的には、戦争の恐ろしさと痛ましさを映し出した悲しい場面だと感じていたが、声を出して笑うコミカルなシーンとしてとらえられたようだ。

客層は若干年齢層が高く日本人も見かけたが、「理解できた?」「ちょっとわからなかったかも」と上映後に若い女性2人が英語で話しており、戦争被爆国とそうでない国とではものの見方も異なるのかもしれないと驚いた。

ほかにも、映像博物館では第94回アカデミー賞で国際長編映画賞を獲得した「ドライブ・マイ・カー」の無料上映があったのだが、ベッドシーンで早々に退席する観客や、長時間の上映で集中力が切れたのかスマホを見たり、イヤホンを片耳だけつけて音楽を聞いたり(!)、観客の出入りが多く、無料上映だからこその弊害のような光景もあった。ちなみに、「黒い雨」など今村昌平監督の特集も無料上映だった。


「PERFECT DAYS」は驚異のロングラン

オーストラリアは多国籍でさまざまな文化を背景に持つ人がいるからこそ、映画やカルチャーのはやりを聞いても、「人による」といった反応をされることが多い。筆者が公開されている映画について話しても「公開しているんだ」といった反応も。そんななか、メルボルンで驚異のロングラン上映が続いたのは、ビム・ベンダース監督、役所広司主演の「PERFECT DAYS」だった。

東京を舞台に清掃員の日々を描く本作は、オーストラリアで3月に公開され、主人公の生活と生き方、東京という街がかなり新鮮で魅力的に映ったようで、12月末時点でも上映している。よく映画館に映画を見に行くので上映作品をこまめに確認しているのだが、「PERFECT DAYS」ほどメルボルンで長い期間上映が続いている映画はほかにはない。

これまで紹介した映画は全て英語字幕で上映されており、「PERFECT DAYS」はドイツ出身のビム・ベンダース監督を通して描かれた日本で、セリフが少なく、英語が第一言語ではない人も映像をじっくり楽しめるのもロングランの要因の一つとなっているかもしれない。ただ、ロングラン上映だからといって「PERFECT DAYS」が人気と知名度がある、と言われるとそうでもなく、やはり一部の人に人気といった印象だ。


「名探偵コナン」ファンの熱量の高さ

「PERFECT DAYS」と別の熱量を感じたのは、日本から遅れること約4カ月後となる8月末にオーストラリアで公開された「名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)」。これまで紹介した映画と圧倒的に違うのは客層で、10代から20代のアジア人が9割を占めていた。特に女性が多く、漫画やアニメを元々知っている人ばかりで、おなじみのキャラクター(特に男性キャラクター)が登場するごとに感情を抑え切れない声が上がっていた。

怪盗キッド、服部平次のシーンは「キャー!」という歓声と悲鳴でセリフが聞こえづらい瞬間もあったが、観客は字幕を追っているのであまり気にならない様子。また、服部平次と遠山和葉の恋模様では、「ギャー!」という絶叫が響き渡り、2人らしいオチは爆笑に包まれていた。

これまでオーストラリアで見たなかで、一番作品のファンが劇場に足を運んでいる印象で、観客のリアクションは日本の映画館で初週に見に行くのと同じくらいの熱量かそれ以上だった。エンドロール後の来年の予告までが「コナン映画」ではあるものの、オーストラリアではエンドロールに入るとすぐに明かりがついてしまうため途中で席を立つ人も。

メルボルンの街では、映画の広告は、バスやトラム(路面電車)のラッピング、駅のポスターくらいで、日本のように、CMで大々的に宣伝したり、商品とコラボ、サイネージやポスターを目にする機会が圧倒的に少ない。日本より宣伝が難しい環境で、日本の映画を映画館で見ようと劇場に行く人がいることが感慨深くもあり、素晴らしい作品がもっと知られてほしいと感じる。

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  • メルボルン上映時の「ゴジラ」ビジュアル=梅山富美子撮影
  • 「PERFECT DAYS」は驚異のロングラン=梅山富美子撮影
  • ファンの熱量の高さを感じた「名探偵コナン」=梅山富美子撮影
  • 「ACMI(オーストラリア映像博物館)」で開催されたゴジラ特集=梅山富美子撮影
  • 「ドライブ・マイ・カー」は無料上映=梅山富美子撮影
  • 半端ない「ゴジラ」(1954年)への力の入れよう=梅山富美子撮影
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