「愛と、利と」の一場面

「愛と、利と」の一場面

2023.2.13

銀行を舞台に4人の男女の恋愛模様を描く、ユ・ヨンソク主演「愛と、利と」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

大野友嘉子

大野友嘉子

一杯のコーヒーから、階級が見えてくる。ハンドドリップか、カプセル式メーカーか。あるいは全自動ドリップ式か、棒コーヒーか。いれ方によって、その人の収入、職位、住まいがなんとなく想像できる。こうした巧みな演出は、ドラマ「愛と、利と」の見どころの一つだ。
 
副題は「The Interest of Love」。Interestは、利権、利害、利子、利息といった意味。銀行を舞台に、恋愛や結婚を巡って人々が「損得勘定」する様を描いている。
 


苦学の末にキャリアをつかんだ男と学歴がネックになる女を軸にした四角関係

 主人公は、母に女手一つで育てられ、苦学して有名大学を卒業し、貧乏から抜け出したハ・サンス(ユ・ヨンソク)KCU銀行ヨンポ支店の係長だ。サンスが思いを寄せる同僚のアン・スヨン(ムン・ガヨン)は、支店で一番の実績を持つが、高卒という学歴がネックになり、契約社員という立場に甘んじている。
 
「賢い医師生活」シリーズで、心優しい小児科医のアン・ジョンウォンを好演したユ・ヨンソクは、本作でも思いやりのある銀行員を演じた。ジョンウォンのファンは必見だ。一方、「女神降臨」の明るくキュートなヒロイン役でブレークしたムン・ガヨン。今回は、孤独を抱え、憂いを含む役柄に挑戦した。
 
この2人を軸に、サンスの大学の後輩で会社社長の父を持つパク・ミギョン(クム・セロク)と、警察官を目指す派遣警備員の男チョン・ジョンヒョン(チョン・ガラム)が「四角関係」を展開する。
 

恋愛や結婚の理想と現実を映し出す

 身分の違いを超えたラブストーリーといえば、財閥の御曹司と庶民の娘の恋が鉄板だが、本作は身近に存在する格差を映し出す。正社員と契約社員、大卒と高卒、親の職業、母子家庭に対する偏見……。相手は自分と釣り合うグレードを持っているだろうか。逆に、自分はどうか。登場人物たちは、頭の片隅でソロバンをはじき、心と相談しながら恋愛をする。
 
サンスは憧れのスヨンと食事の約束を取り付ける。浮かれるサンス。そんな時、同僚の言葉に動揺する。恋人の親に挨拶をするため、彼女の実家を訪れた同僚は、家のトイレがくみ取り式だったことから、彼女の家が貧しいことを実感したという。「俺が稼いだ金は自由に使えなくなる」と思った、と嘆く。
 
サンスは、自分とスヨンとを重ね合わせてしまう。スヨンは、経済的な理由で大学に行けなかったからだ。貧しさを乗り越えたサンスにとって、スヨンが背負うものは現実味があり、重荷だった。スヨンとの恋に突き進んでいいのか、とっさに迷う。その一瞬の躊躇(ちゅうちょ)を、スヨンに察知されてしまう。
 
サンスと同僚のためらいは一見すると薄情で、腹立たしくもある。だけど、自分に置き換えて考えると、どうか。外食の頻度や休日の過ごし方から、実家を援助するかどうかについての考え方が違った場合、どこまで相手に合わせられるだろう。生活水準があまりにも違う人と生活を共にするのは難しい。現実はきれいごとでは済まされないのだ。
 
サンスたちの戸惑いは、私たちが抱きがちな愛の幻想を打ち破る。恋愛や結婚は所詮、身の丈にあったスペックの持ち主の中から相手を探すという、合理的な選択に過ぎないのかもしれない。そんな現実を直視させられる。
 

アッパー・クラスだからこその葛藤と苦しみも

 ミギョンもまた、階級の烙印(らくいん)に苦しむ一人だ。財閥とまではいかなくても、事業に成功した父親を持つ彼女は、いつだって努力が認められない。奨学金をもらって“自力で”大学を卒業したが、友人には「本当に必要とする人の奨学金を奪った」となじられる。親のコネを使わずに銀行に就職したつもりでいたが、どうやら父親が裏で動いていたことを知る。
 
ただ、ミギョンのこうした側面は見逃されがちかもしれない。彼女は、スヨンが羨望(せんぼう)するものを簡単に手に入れていくからだ。サンスを恋人にしてしまう。スヨンがショーウインドー越しに眺めていた絵画を買い取り、自宅のトイレに飾る。何をしても裕福さがにじみ出てしまう。
 
4人の中で比較的に恋愛の自由度が高いのもミギョンだろう。経済的な余裕がなし得る業である。父親は、家柄が「格下」のサンスとの交際をすんなりと認める。母親は少々口うるさいが、発言権はなさそう。なんだかんだ言って、恵まれている。親から自立しようと奮闘する一方で、悪気はなくアッパー・クラスであることを見せつけるアンビバレントな存在だ。
 

スローテンポだが、意外にスリリングなストーリー展開

 サンスとミギョンが交際を始めると同時に、スヨンとジョンヒョンも恋人関係になる。大卒の正社員であるサンスとミギョンに対して、2人は大卒という学歴も正社員という肩書もない「持たざる者」同士。しかし、そんなスヨンとジョンヒョンの間にも格差がある。
 
貧しい両親に仕送りをし、病気になった父親の治療費を払うジョンヒョン。家賃を抑えるために屋根部屋で暮らすスヨンも、決して楽な生活ではないが、収入はジョンヒョンよりもあるようだ。彼を自宅に住まわせ、父親の治療費を出してあげる。
 
悪いことに、ジョンヒョンは公務員試験に落ち続ける。安定した職に就けず、恋人に援助される自分を情けなく思い、どんどん卑屈になる。ジョンヒョンに対し、スヨンは恋のときめきよりも同情心を強めていく。好きなワインを控え、彼の生活に合わせようとする。そんなスヨンの気配りを、ジョンヒョンは負担に思う。似た階層にいるという利害が一致したはずの2人の間に、微妙な格差の影が落ちる。
 
展開がスローテンポで、サンスとスヨンのもどかしい関係に終始ジリジリさせられる。好き嫌いが分かれるドラマかもしれない。それでも毎回こちらの想像を裏切る、ギョッとするような終わり方をする。思いの外スリリングな作品だ。
 
そして何より心をざわつかせられるのは、ドラマが私たちに突き付ける不都合な真実だろう。身分制度がなくなったはずの現代社会に、階級はとても身近なところに、色濃く残っているということを。
 
「愛と、利と」はNetflixで独占配信中


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ライター
大野友嘉子

大野友嘉子

おおの・ゆかこ 毎日新聞くらし科学環境部記者。2009年に入社し、津支局や中部報道センターなどを経て現職。へそ曲がりな性格だと言われるが、「愛の不時着」とBTSにハマる。尊敬する人は太田光とキング牧師。ツイッター(@yukako_ohno)でたまにつぶやいている。