「セキュリティ・チェック」

「セキュリティ・チェック」© 2024 Netflix, Inc.

2025.1.01

Netflix年間最大ヒット!「セキュリティ・チェック」 人気の理由は「ダイ・ハード」的懐かしさにアリ?

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

筆者:

SYO

SYO

Netflixで12月13日に配信開始されたオリジナル映画「セキュリティ・チェック」が、好調だ。初登場にして93カ国でトップ10入りし、10日間で約9700万回再生という年間1位の数字をたたき出した。このままの勢いだと、Netflix歴代トップ10のヒットになるフィーバーぶりだ。日本でも連日映画視聴ランキング上位に君臨し続ける本作、人気の理由は何なのか? 改めて考えてみたい。
 

舞台はクリスマスでごった返す空港

まず、作品の概要をおさらい。もはや説明不要の人気作「エスター」や「フライト・ゲーム」ほかリーアム・ニーソンのアクション作品を手掛け、近作では「ジャングル・クルーズ」などが挙げられるジャウム・コレット・セラが監督。主演を「キングスマン」シリーズのタロン・エガートンが務める。舞台は、クリスマスでごった返す空港。同じ空港で働く恋人の妊娠が分かった税関職員イーサン(エガートン)は、将来のためにもキャリアアップを決意し、荷物検査のポジションを願い出る。だが運悪く謎の男とその仲間に脅迫され、「ある荷物を通過させろ。逆らえば恋人を殺す」と言われてしまい……。
「セキュリティ・チェック」© 2024 Netflix, Inc.
このあらすじから見てとれる通り、「セキュリティ・チェック」は過去の人気作にも通じる王道要素てんこ盛り×Netflixという「自宅で簡単に見られる」視聴環境が掛け合わさったハイブリッドな一本。もちろん新鮮味はあれど、手練れのキャスト・スタッフによる手堅い一本という印象の方が強い作品ではないか。ただ面白いだけでは当たらない昨今の映画興行の難しさに対する、「ユーザビリティー特化」という一つの解答といえるかもしれない。
 

映画好きを刺激する〝 こういうのでいいんだよ〟感

本作はいわゆる〝 巻き込まれ型サスペンス 〟であり、クリスマスや空港という要素も相まって「ダイ・ハード」シリーズを想起させる。さらに主人公の名前が「イーサン」と、「ミッション:インポッシブル」好きなら反応してしまう要素も盛り込んでいる(余談だが「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE」の序盤の舞台も空港だった)。特殊技能を持たない男が姿の見えないテロリストに翻弄(ほんろう)される展開やライブ感、途中から姿を現して直接対決に移行していく流れは、ジョニー・デップ主演の「ニック・オブ・タイム」にも通じる。

これらはあくまで一例で、冒頭からの伏線の張り方や「別の事件を追う刑事がやがて合流する」展開、「かつて警官を目指していたが諦めた男」という主人公のバックボーンに至るまで、映画好きをいちいち刺激してくる点が特徴だ。事件に巻き込まれた職員や市民があっさりと死んでいくある種のドライさ、途中から犯人グループがなりふり構わず暴れ出し、どんどん大ごとになっていくやや大味な物語の転がし方、10分に1回くらいきちんとアクションシーンを入れてくれる親切な設計、お約束ともいえる主人公の爆弾処理シーン、危機を脱した際の主人公×ヒロインのいちゃつき等々、ウエット&シリアスな傾向にある昨今のハリウッド大作のトレンドとは異なり、どこか懐かしい。いわば「セキュリティ・チェック」は〝 こういうのでいいんだよ〟感をきちんと踏襲した快作といえる。
「セキュリティ・チェック」© 2024 Netflix, Inc.

今風映像センスと説得力のある演技

もちろん、懐かしさは古臭さにもつながりかねないため、バランス感覚は必要不可欠。その点、「おしゃれすぎるサメ映画」として界隈(かいわい)で話題を呼んだ「ロスト・バケーション」のセラ監督は抜かりない。彼の得意技である「スマホ上でのやり取りがAR(拡張現実)的に画面に表示される」〝 映え〟な演出はもとより、ダイナミックな空撮やここぞという場面での長回し等々、随所に今風な映像センスを感じさせる。今回の〝 脅威〟となるのはロシア製の神経ガス爆弾だが、操作アプリを含めたガジェットのデザインもレトロとスタイリッシュの中間点に着地させている(個人的には解体シーンに名作「ザ・ロック」を思い出した)。
 
特に前半は犯人が姿を現さないため、イーサン役には表情で引っ張らねばならない役割が課されるが、きっちりとこなしたエガートンの芝居も利いている。本作の特徴のひとつに、最後の最後まで主人公が覚醒しない点が挙げられるが、「着眼点はいいのにテンパり気味で常に犯人のほうが上手」「直接対決シーンでもほぼ一方的にボコられる」「犯人に負け犬呼ばわりされてしまう」等々、終盤までほぼいいところなしの小市民感にきちんと説得力を持たせており、その残念さが視聴者の共感の呼び水として機能している(彼が犯人に仕掛けるわなも税関職員ならではのアイデアだ)。配分を間違えれば「カッコ悪い」「魅力的でない」と思われてしまうようなところをしっかりと回避し、最後の最後にヒーローになる逆転劇で魅了する後味の良い娯楽大作にできたのには、エガートンの貢献度も非常に大きい。
「セキュリティ・チェック」© 2024 Netflix, Inc.
奇をてらった構成ではなく「待ってました」な要素を増やすことで、「わかりやすさ」が強化され、視聴者に「気持ちよさ」を呼び起こす「セキュリティ・チェック」。年末年始でどこまで数字を伸ばせるのか、そして今後のNetflixオリジナル映画にどのような影響を及ぼすのかも注目だ。

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