出版社が映画化したい!と妄想している原作本を担当者が紹介。近い将来、この作品が映画化されるかも。
皆様ぜひとも映画好きの先買い読書をお楽しみください。
「入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください」
2025.3.13
怖いのにいとおしい、新感覚ホラー・寝舟はやせ「入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください」
今、WEB発ホラーがアツい!
ホラーに興味のある方には、何を今さらと思われるかもしれません。
書籍が爆発的ヒットを記録した「変な家」(著:雨穴/飛鳥新社)や「近畿地方のある場所について」(著:背筋/KADOKAWA)をはじめとし、映像化される作品も出てきています。
「入居条件:隣に住んでる友人と必ず仲良くしてください」も、そんなWEBから生まれたホラー小説です。 たしかに怖い。怖いのに、いとおしくて、彼らの様子をずっと読んでいたくなる……そんな唯一無二の、不思議なホラー。映画になっても、絶対にこの魅力を爆発させるはず。そう信じて、本作をご紹介します。
怪異が語る怪談に日常が侵食される
本作の主人公・タカヒロは、実母のせいで貯金も住み家も何もかもを失ってしまいます。絶望するタカヒロの目に入ったのは、「今すぐ人生がどうにかなってもいい人募集中!」という張り紙。それは、住み込みでマンションの一室を管理するという仕事の求人でした。雇用兼入居の条件は、「隣人と必ず仲良くすること」。他に行き場のないタカヒロはマンションに流れ着きますが、待っていたのは明らかに人間ではない《隣人》でした。
「これは友達から聞いた話なんだけどね」真っ黒にただれた六本指に、管状の口、長い舌。怪異のくせに怪談を語るのが好きな隣人の話を、タカヒロはベランダ越しに聞くことになります。もちろん聞くだけではいけません。適切な相づちを打ち、「必ず仲良く」しなければならないのです。この部屋からはすでに23人が逃げ出しているというのですから、返答一つ間違えられない緊迫感がただよいます。そのうえ、架空かと思われた怪談の内容は次第にタカヒロを取り巻く現実とリンクし始めて――。
隣人がベランダ越しに語る怪談の内容と、タカヒロ視点の現実を描いたパートが重なり合う二重の構造になっていて、読んでいるうちにじわじわと侵食されるような感覚が湧いてきます。構成面でも個性が光る小説です。
強烈な個性を放つキャラクターたち
いかにも恐ろしい姿をした隣人ですが、時折どうにもきゅんとくる言動をするのです。
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(小説P57より)
グミを買って帰った日、隣人はあれこれと珍しがって、パッケージが開けられずに一度俺に戻して、それから開いた袋を嬉しそうに受け取ってちまちまと食べた。
いたく気に入ったらしく、それから一週間に一袋のペースで美味しく食べている。
(中略)
「今度ね、絶対ね。かたいのじゃなくて、やわこいほうね」
「分かった分かった」
どうやら余程気に入ったらしい。とびきりに楽しみにしているのが伝わってきたので、思わず笑い混じりに相槌を打つ。
隣人はくふくふと笑いながら、やけに弾んだ声で言った。
「ありがとね、タカヒロ」
随分と柔らかい響きだった。
心の底から期待に満ちた声だった。
そんな、今生で一番のプレゼント貰ったみたいなリアクションされても。
たかがグミ如きで。
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そしてこのマンションには、隣人以外にも奇妙な住人たちがいます。
タカヒロは、次々に起こる怪異現象に対峙(たいじ)するため、彼らとも《交流》せざるをえなくなります。
同じフロアに住む、少女の怨霊(おんりょう)・澄江由奈。《お首》だけ外に出られる彼女は、タカヒロを捜し回る母親に執着を見せ、そこから手紙のやり取りが始まります。
タカヒロのベッドの掛け布団は、時折人型に膨らみ、布団の隙間(すきま)からさびた裁ちばさみを持った腕が伸びてきます。不干渉を貫いてきましたが、タカヒロにあるピンチが訪れた際、布団の怪異は行動を起こします――。
タカヒロが薄氷を踏むようにして、彼らとつながりを作っていく様子は、ホラーなのにほっこりすると多くの読者から支持を得ています。もし映画になって、彼ら一人一人にビジュアルが与えられたら……いうまでもなく、わくわくします。
奇怪で、いとおしくて、どこか切ない日常
はたから見たら恐怖の物件。そしてタカヒロ自身、間違いなく綱渡りのような生活をしているのに彼はこうも考えています。
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(小説P38より)
そういう訳で、俺は今日もあのマンションで暮らすことで命を繋いでいる。
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こう考えるだけの背景をもつタカヒロは、一つ一つの怪異にしっかり恐怖しつつも、どこか淡々としていて、この奇怪な日常をまるごと受け入れています。この氷は、いつ砕けてしまうのか。彼は、いつ綱から転落してしまうのか。はらはらする読者の胸には、いつしかタカヒロと怪異たちへのいとおしさと、日常の続きを信じきれない歯がゆさが芽生えています。もっと、もっと、できるだけ長くこの世界に浸っていたい……!と思わされてしまうのです。この本作にしかない空気感をぜひ映像化いただき、「隣友」ワールドをより多くの方々と共有できたら、これ以上うれしいことはありません。
早くも続編を望む声を多数いただいています。気になった方は、まずは小説を手に取ってみてください。