「さかさ星」

「さかさ星」

2024.11.26

「ヒトコワ」的な恐怖「さかさ星」貴志祐介作の緻密かつ異形の推理は映像化されても見る者を夢中に!

出版社が映画化したい!と妄想している原作本を担当者が紹介。近い将来、この作品が映画化されるかも。
皆様ぜひとも映画好きの先買い読書をお楽しみください。

ひとしねま

宮本貴史

あなたの家には、昔からあるけれどいわれのわからない掛け軸や人形、置物といった品がありませんか? もし、何の変哲もないそんな品々が、おぞましい来歴を持つ怨念(おんねん)の込められた「呪物」だとしたら……。「黒い家」「悪の教典」と数多くの映像化作品を手がけた現代ホラーの旗手、貴志祐介さんの最新作「さかさ星」は、そんな「呪物」が引き起こす新たな恐怖の長編小説です。

調査の対象は亮太の親戚筋である福森家の屋敷

物語は、ある屋敷に向かう車中のシーンからはじまります。主人公のホラー系配信者・中村亮太は、祖母の富士子に頼まれ、小鬼(ゴブリン)のような容貌の霊能者・賀茂禮子による霊的調査を記録することになりました。調査の対象は亮太の親戚筋である福森家の屋敷。そこでは一夜にして一族の大半が人間離れした手口で惨殺される事件が起きていました。賀茂によると、福森家が所蔵する無数の呪物が事件の原因とのこと。次々に見つかる呪物の霊視を記録していくうちに、恐るべき怨念の魔の手が亮太にも忍び寄ってきて——。

没入感に満ちていて

近年では「死霊館」や「呪詛」、古くは「エクソシスト」といった海外の人気ホラー映画をほうふつとさせるオカルト的事件の解決を目指す導入部は、没入感に満ちていて、映像化しても見る者を引きつけること間違いなし!

「ヒトコワ」的な恐怖

賀茂の調査で見つかる呪物は、いかにも怪しげな「幽霊画」や「河童(かっぱ)の木乃伊(みいら)」から、何の変哲もない「ティーカップ」まで多種多様。共通するのは、いずれも尋常でない怨念が込められていること。霊視によって「呪い」が生まれるに至ったはるか昔の悲劇や相克が語られますが、そこには人間の業の恐ろしさ、「ヒトコワ」的な恐怖がこれでもかと詰め込まれています。超常的な怪異の恐ろしさと「ヒトコワ」をダブルで味わえるのも「さかさ星」独自の魅力です。

「呪物の論理」に支配された緊迫の推理戦

やがて、亮太は自らと一族の生き残りをかけて福森家に結集した呪物によってかけられた「さかさ星の呪法」の謎解きに挑むことに。複雑に呪いが絡み合う危険地帯と化した屋敷の中で、どの呪物を取り除けば呪いが解けるのか、そして呪いを仕掛けた黒幕は誰なのか。尋常ではない「呪物の論理」に支配された緊迫の推理戦が始まります。ドラマ「鍵のかかった部屋」の原作「防犯探偵・榎本」シリーズをてがけるなど、ミステリーも得意分野とする著者ならではの緻密かつ異形の推理は、映像化されても見る者を夢中にさせることでしょう。

映像化イチオシ作品

ホラーが大流行する中でも、600ページを超える重厚さと、戦慄(せんりつ)するほどの圧倒的な密度を併せ持ち、恐怖と謎に満ち満ちた「さかさ星」は、まちがいなく映像化イチオシ作品と断言します。ぜひ一度手に取ってみてください!

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ライター
ひとしねま

宮本貴史

みやもと・たかふみ
2015年、KADOKAWAに新卒入社し、映画部門、次いで法務部門、さらに角川文庫編集部での勤務を経て現在は単行本編集部に所属。「清算」作中の登記に関する描写や法務局のシーンを読んで法務部門時代の思い出がよみがえる。昨年、2億円ならぬ7億円の当選を狙い、まとまった数の年末ジャンボ宝くじを購入するが惨敗を喫した。

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