「エゴイスト」 © 2023 高山真・小学館「エゴイスト」製作委員会

「エゴイスト」 © 2023 高山真・小学館「エゴイスト」製作委員会

2023.2.17

「エゴイスト」

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

ファッション雑誌編集者の浩輔(鈴木亮平)が出会ったのは、シングルマザーである母親の妙子(阿川佐和子)を支えながら生きるパーソナルトレーナーの龍太(宮沢氷魚)。ひかれ合った浩輔と龍太は幸せな日々を送るが、突然の別れが訪れる。コラムニストとしても活躍した高山真の自伝的小説を、「Pure Japanese」の松永大司監督が映画化した。

被写体に肉薄する手持ちカメラが伝えるのは、格差のあるふたりの関係と温度だ。恋愛のみならず、龍太と妙子を支えたいという浩輔の祈りのような思いにもフォーカスする。亡くなった母親への後悔を抱えた浩輔がふたりを支援したのは愛なのか、それとも償いなのか。「エゴイスト」というタイトルが投げかける問いへの答えは、観客によって違う色合いになるかもしれない。浩輔の友人たちのコミュニティーのリアルな描写も含め、日本のゲイ映画で完成度の高いものにしたいという作り手の矜持(きょうじ)を感じる記念碑的な作品。2時間。東京・テアトル新宿、大阪・シネ・リーブル梅田ほかで公開中。(細)

ここに注目

浩輔が生活苦にあえぐ龍太の母親にお金を手渡すシーンで「そこまでするのか?」と思わされたが、実はいくつもの金銭的なやりとりが意図的に盛り込まれていることに気づく。美しいだけの恋愛映画にせず、驚きや違和感も誘う人物描写の繊細さ、懐の深さにうなった。(諭)

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