「やがて海へと届く」©2022映画「やがて海へと届く」製作委員会

「やがて海へと届く」©2022映画「やがて海へと届く」製作委員会

2022.3.30

インタビュー:浜辺美波「やがて海へと届く」 演じることは9割しんどくて1割楽しい

勝田友巳

勝田友巳

いろいろな役を演じて、キャリアにつなげたい

デビュー10年、高校を卒業して俳優業に専念し、今はいろいろな役を演じて幅を広げる時期だという。「得意だからこれをやろうというよりは、未熟なうちに経験を積んで、キャリアにつなげていけたら。苦手でもなんでも、やることが大事だと思います」
 
「思い、思われ、ふり、ふられ」(2020年)で少女マンガ的な恋愛映画のヒロインを演じ、「映画 賭ケグルイ」シリーズの蛇喰夢子のような振り切った役に「やってやれ」と挑む。「やがて海へと届く」(中川龍太郎監督)は、女同士の友情とも恋愛ともつかない関係を描く。これまでと趣の異なる役柄を、繊細に演じてみせた。
 
大学に入学して間もなく出会った、真奈(岸井ゆきの)とすみれ(浜辺美波)。誰とでも打ち解けるすみれと引っ込み思案な真奈は親友となるが、すみれは旅先で東日本大震災に遭い、行方不明となる。5年後にすみれの遺品整理をすることになった真奈の回想として、2人の歳月が語られる。

 

気負いなく「フワーッと」演じる

物語の起伏よりも登場人物の関係と心情が中心だ。中川監督の脚本は「ト書きが多くて、日本語が柔らかくて丁寧で。風がフワッと吹くような感じ」。しかし目には見えない関係性や、名付けようのない気持ちが描かれて「どういう作品になるのかな」と思ったという。
 
中川監督も、正解を求める演出ではない。「物語を結末に向けてまとめるよりも、登場人物と一緒に行き着いた先で終わろう、その後は見た人に委ねようとしている。答えを示したり、こう思ってほしいということもない。人に押しつけない作り方でした」。映画の冒頭にある幻想的なアニメーションを見て、映画の雰囲気をつかんだ。
 
だからすみれの造形も、作り込むよりは自然とあふれ出るものに任せたという。「岸井さんの存在と表情を見て、感じて、思ったことをしようって。『よし、今日はやるぞ』という気負いはなくて、フワーッと現場に行って撮影して、フワーッと帰る。やりきった感もないまま、あっという間に過ぎました。日常の一瞬みたいでしたね」
 

すみれは社交的なようでいて、心の奥底は見通せない。「ずっと自分を探し続けている、他人のイメージと自分のギャップに苦しんでいて、それを人に見せるのも苦手な女の子」。すみれを失った真奈の深い悲しみと喪失の受容を描く一方で、すみれの孤独や葛藤も映し出す。「不思議と、すみれは海へと帰っていった感覚が強かった。本意だったかは別ですけど、いなくなることをあまりマイナスに捉えない。何かを探して、もがいているうちに、全てを捨てて、あるべき所へ帰っていった、戻る場所がそこだった。そういう印象を新鮮に感じました」

 

震災を忘れないために 残された側の思いを描く

東日本大震災は直接的には描かれず、実際の被災者と被災者を演じた俳優たちが、劇中で喪失体験を語る。こうした作品に傷つく人もいるのではないかと、はじめは気になっていたそうだ。しかし、被災者を知るにつれて、気付いたことがある。
 
「触れないでほしいというより、忘れないために作品に残してほしい、話を聞いて知ってほしいという思いが強かった。理由もなく急に誰かがいなくなって、残された側の思いが強いんだと。この映画も、人と人の別れにフォーカスを当てています。見ていただきたいと大きな声で言えるんだと、うれしかったです」
 

新しい景色 探しながら

高校入学と同時に上京し、学業と芸能活動を両立させてきた。睡眠時間を削る生活に「あの時期が一番大変だった」と振り返る。「今はすごく楽。お仕事のために体調を整える、台本読む時間を自分で作れる。時間を仕事だけに注げる幸せを感じます」
 
すみれのような役も、蛇喰夢子のような役も、両方やりたいと貪欲だ。「演じるのは、9割しんどいけど、1割楽しい。台本を読んで感じる気持ち、現場の景色や相手の表情を前にして湧いてくる感情が違う。あ、こんなふうに思うんだ、こう見えるんだって。新しい景色を見せてくれる、驚きがたくさんある職業だなと思います。この作品で自分に何が見えるんだろう、どういう気持ちになるんだろうと、探しながら演じています」

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

幾島健太郎

毎日新聞写真部カメラマン