「ヒットマン」

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2024.8.31

英月が問う 殺し屋を演じる男の自分とは? 「ヒットマン」

「仏教の次に映画が大好き」という、京都・大行寺(だいぎょうじ)住職の英月(えいげつ)さんが、僧侶の視点から新作映画を紹介。悩みを抱えた人間たちへの、お釈迦(しゃか)様のメッセージを読み解きます。

英月

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この映画は、プロの殺し屋を演じて警察のおとり捜査に協力し、70人以上を逮捕に導いた実在の潜入捜査官ゲイリー・ジョンソン(1947~2022年)をモデルにしたコメディーです。大学で心理学と哲学を教える傍ら、「殺人を依頼する」というリアルな心理を知ることができると警察に協力を始めたゲイリー(グレン・パウエル)。あらかじめ依頼人の好みを調査し、それに合わせた殺し屋に変装するなどして、次々と成果を上げます。別の人間になることをも楽しむようになっていた彼はある日、「夫を殺してほしい」という依頼者・マディソン(アドリア・アルホナ)に、殺し屋〝ロン〟として接触します。

着手金を〝ロン〟が受け取れば、それが証拠となり、彼女は逮捕されます。それが仕事なのですが、彼女の状況を知った彼は「この金で新しい人生を手に入れろ」と見逃します。金のために人殺しをする非情な〝ロン〟になりきっていた中に、ゲイリーの人間性が顔を出したのです。後日、マディソンから、夫の元を離れたと連絡があったことから再会、2人の関係が始まります。しかししばらくして、彼女の夫の遺体が見つかります。

さて映画では、ゲイリーが学生たちに「『自分』とは?」と問いかけるシーンがあります。彼自身、マディソンと出会い「着手金を受け取らない」という判断をしたことから、小さな気づきが生まれます。皮肉なもので、彼は〝ロン〟を演じる中で、自分自身に出会うことができたのです。では、その自分とは? 知っているつもりの自分自身ですが、果たして私は出会えているのか。そんなことを思いました。

9月13日から東京・新宿ピカデリー、大阪ステーションシティシネマほかで公開。

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ライター
英月

英月

えいげつ 1971年、京都市下京区の真宗佛光寺派・大行寺に生まれる。29歳で単身渡米し、ラジオパーソナリティーなどとして活動する一方、僧侶として現地で「写経の会」を開く。寺を継ぐはずだった弟が家出をしたため2010年に帰国、15年に大行寺住職に就任。著書に「二河白道ものがたり いのちに目覚める」ほか。インスタグラムツイッターでも発信中。Radio極楽シネマも、好評配信中。

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