「アウシュヴィッツの生還者」© 2022 HEAVYWEIGHT HOLDINGS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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2023.7.26

ホロコーストを生き延びたことは〝罪〟なのか 「アウシュヴィッツの生還者」

「仏教の次に映画が大好き」という、京都・大行寺(だいぎょうじ)住職の英月(えいげつ)さんが、僧侶の視点から新作映画を紹介。悩みを抱えた人間たちへの、お釈迦(しゃか)様のメッセージを読み解きます。

英月

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この物語の主人公は「ポーランドの誇りにしてアウシュヴィッツの生還者」というキャッチフレーズで米国で活躍したユダヤ人ボクサー、ハリー・ハフト(ベン・フォスター)。実話に基づいています。ハリーがボクシングを始めたのは、第二次世界大戦中の強制収容所の中でした。ナチスが余興のために催した賭けボクシングのボクサーになった彼は、過酷な状況の中でも、生き別れになった恋人・レア(ダル・ズーゾフスキー)と再会することを願い、その願いを力として何とか生き抜きます。戦後、米国に渡りボクサーとして華々しい成績を上げますが、戦時中のPTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しみ、スランプに。生き残ったことに対する罪悪感に苦しみ続けます。しかし彼には試合を続ける必要がありました。有名になることで、レアに自分の無事を知らせられると考えたのです。

さて、私たちの生活は日々、選択の連続です。目覚めた時から眠る時まで、何時に起きるか、何を食べるか、どの道を通るかとささいなことから人生の重大事まで。しかしそれらは「私がした選択」でしょうか。例えば寝坊することもあるでしょう。予定していた道が工事中で通れず、他の道に変えることもあります。状況によって「その選択を選択せしめられて」いるにすぎないのです。

ハリーが苦しんだのも、「生き残ったことに対する罪悪感」ではなく、自分が「生き残る」という選択をしたことでした。けれども実際には、自分では選択はできませんでした。その道しかなかったのです。私たちも同じです。この道しかなかったとはっきりと知らされることは、人生を諦めるのではなく、後悔の思いから解放されることではないでしょうか。

8月11日、東京・新宿武蔵野館、大阪・シネ・リーブル梅田ほかで公開。

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ライター
英月

英月

えいげつ 1971年、京都市下京区の真宗佛光寺派・大行寺に生まれる。29歳で単身渡米し、ラジオパーソナリティーなどとして活動する一方、僧侶として現地で「写経の会」を開く。寺を継ぐはずだった弟が家出をしたため2010年に帰国、15年に大行寺住職に就任。著書に「二河白道ものがたり いのちに目覚める」ほか。インスタグラムツイッターでも発信中。Radio極楽シネマも、好評配信中。

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