©︎2022「マイスモールランド」製作委員会

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2022.4.25

「居場所、矛盾、 時間、 家族」 和合由依が見た 映画「マイスモールランド」

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

和合由依

和合由依

``居場所``
居場所とはなんだろう。
この映画は自分の居場所について深く考えさせてくれます。
 
こんなにも世界は広いのに、どこを探しても居場所がない人たちがいる。
生きているのに、生きられる場所がない。
この現実をあなたはどう思いますか。


 
物語の主人公は、17歳の高校生サーリャ。
クルド人です。
 
父、マズルムと、妹、アーリン、弟のロビンの家族4人で暮らしています。
 
サーリャは、埼玉県の高校に通い、日本人の友達もいます。
家族がいて、友達がいて、自分の居場所がある。

 
でも、ある日突然、そんな生活が変わるのです。
難民申請が通らなくなります。家族全員。
 
 行動範囲が限られ、移動できるのは埼玉だけ。働くこともできなくなる。
 
サーリャは友達に、東京に遊びに行こうよと誘われても、もう行くことができない。
バイトのお給料をためて将来の自分のために貯金していたけど、今は働くこともできない。
父親も同じ。
 
 行動範囲が決められる。
やりたいことができない。
 
 ここで生きたいと願うのに声は届かない。
 
何気ない日々が本当に幸せで、友達と笑って話ができていることが自分にとって大切な時間で、そんな自分がいられる場所があることが本当にハッピーなのだと、伝えてくれます。居場所について深く考えさせてくれます。
 
この映画を見ると、ここにいられることが幸せなのだということに気が付きます。

 
マイスモールランドの川和田恵真監督は、自分と同年代くらいの女性が、家族を守ろうと大きな銃を手に持って戦っている姿を目にして、衝撃を受けたと言います。
このことがきっかけで、難民の人たちについて興味を持ち、周りにも発信していきたいと思ったのだそうです。
 
監督は今年の第72回ベルリン国際映画祭でこう語っていました。
「日本では難民申請してもほとんどの人が認められない。そんな状況でも、日本しか来る場所がなくてやって来ている人たちがいる。そういう人たちのことをほとんどの人が知らない``知らないけど、いないことにしないでほしい``     そういう気持ちを持って、この映画を作りました」
 
「フィクションで描いたからこそ、自分の物語でもある。いろんなルーツをもつ人以外にも見てもらえたらたらいいなと思います。」と。
 
監督は、この映画を作るにあたって、日本の中で、一番多くクルド人が住んでいるという、埼玉県南部に行き、実際にクルドの人たちと交流しました。
 
実際にクルドの人たちと会わないと、伝わらない事実がある。
 
監督が、実際に口を開いて会話をしたからこそ、この映画が生まれたのだと私は思います。
 
クルドの人たちがどんな日々を送っているのか。
自分の生活と違いはあるのか。
 
そんな問いかけをしながら、この映画を見てみてください。
 
きっと、
矛盾、
時間、
家族、
そんなことを深く考えることができると思います。
 
エンドロールで流れてくる曲「New Morning」が、心に優しく染みてくる。
サーリャという人間の美しさがそのまま描き出された曲だと思います。
 
この映画で3回泣きました。
泣かずにはいられませんでした。
みんな人間なのに、仲間なのに、差別があることが悲しくて。
胸が痛くて。
 
同じ仲間なのに、近くにいた人が難民だと分かった瞬間、人は、その人から距離を置こうとする。
自分たちで壁を作ってしまうのです。
難民の人を助けたいと思っても、行動に移さない人がほとんど。
 
助けたいと思うだけで終わってしまう。
 
それが人間なのだと、この映画を見て感じた時、急に心臓が冷たくなりました。
一瞬にして。
 
心臓が冷えて動けなくなる。
これが3回繰り返されて、3回泣きました。
体は、私に動くことを許しませんでした。
じっとしたまま、涙が勝手に出てくるのです。
 
助けたいと思っても、助けられない。
 
法律という重たい壁が、差別を生むのです。
 
これがどんなにつらいことか。
 
自分が知っていることは、世界から見たらほんのカケラで、本当に小さいのです。
 
マイスモールランドという一本の映画が、私に世界の見方をまた一つ増やしてくれました。
パズルのピースが一つ増えるように。

いつか、難民の人たちが安心して暮らせる世界になりますように。


「川和田恵真監督インタビュー 居場所求めるクルド難民少女 自分重ね描いた」はこちら
「シネマの週末:マイスモールランド 隣に生きる難民の鼓動」はこちら。

第72回ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門アムネスティ国際映画賞特別表彰、企画段階で第23回釜山国際映画祭アルテ国際賞を受賞。
今も世界中で起きている問題を繊細にナチュラルに力強く描いた作品です。

マイスモールランド
出演:嵐莉菜、奥平大兼、平泉成、藤井隆、池脇千鶴、アラシ・カーフィザデー、リリ・カーフィザデー、リオン・カーフィザデー、韓英恵、サヘル・ローズほか
 監督・脚本:川和田恵真   企画:分福
制作プロダクション:AOI Pro. 共同制作:NHK FILM-IN-EVOLUTION(日仏共同制作)
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
製作:「マイスモールランド」製作委員会 配給:バンダイナムコアーツ ©︎2022「マイスモールランド」製作委員会
2022年/日本/114分/5.1ch/アメリカンビスタ/カラー/デジタル

マイスモールランド

クルド人の家族とともに生まれた地を離れ、幼い頃から埼玉で育った17歳のサーリャ。
すこし前までは同世代の日本人と変わらない、ごく普通の高校生活を送っていた。しかし在留資格を
失った今、バイトすることも、進学することも、埼玉を越え、東京にいる友人に会うことさえできない。
彼女が日本に居たいと望むことは“罪”なのだろうか―?

ライター
和合由依

和合由依

2008年1月10日生まれ。東京2020パラリンピック開会式では、これまで演技経験がなかったものの、片翼の小さな飛行機役を演じ切り、世界中の人々に勇気と感動を与えた。羊膜索症候群、関節拘縮症による上肢下肢の機能障害を抱える。中学校では吹奏楽部に所属しユーフォニアムを担当。趣味は映画鑑賞のほか歌や絵画。2021年毎日スポーツ人賞文化賞を受賞。

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