「復讐は私にまかせて」

「復讐は私にまかせて」

2022.8.19

特選掘り出し!:「復讐は私にまかせて」 濃厚にマチズモを撃つ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

近年、東南アジア映画の伸長がめざましい。インドネシアのエドウィン監督による本作も、破天荒かつ刺激的な一作。

舞台は1989年。けんか好きで無鉄砲なアジョ(マルティーノ・リオ)は、勃起不全に悩んでいる。殴り込み先でボディーガードのイトゥン(ラディア・シェリル)と戦った後、2人は激しい恋に落ち、やがて結婚。アジョの勃起不全の原因が、少年期の性的暴行と知ったイトゥンは、復讐(ふくしゅう)のため相手を捜し出す。

開巻間もなく、殺風景な採掘場でアジョとイトゥンが対決するアクションから、70年代香港映画やその影響を受けたタランティーノらのB級趣味満載。バイオレンスだけでなくエロス、唐突に登場して筋書きを混乱させる魔女(?)ジェリタのオカルト風味、笑いの要素も詰め込んだごった煮映画。

しかしそこには、マチズモ(男性優位)と性的不能に引き裂かれるアジョ、産む性と反男性支配を共に体現するイトゥンなど、さまざまな社会的隠喩が仮託され、重層的な仕掛けが施されている。チープに見えても、侮るべからず。ロカルノ国際映画祭最高賞。1時間55分。20日から東京・シアター・イメージフォーラム、大阪・第七芸術劇場。順次全国でも。(勝)