「1秒先の彼」の山下敦弘監督=三浦研吾撮影

「1秒先の彼」の山下敦弘監督=三浦研吾撮影

2023.7.05

岡田将生×清原果耶×クドカン×台湾 かけ算で生まれた新たな魅力 山下敦弘監督「1秒先の彼」

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勝田友巳

勝田友巳

キュートな快作の台湾映画「1秒先の彼女」をリメークした山下敦弘監督。「自分の映画作りは、かけ算」と言う。チェン・ユーシュン監督の台湾オリジナル版、日本版脚本の宮藤官九郎、そして主演の岡田将生と清原果耶……。掛け合わせた結果はいかに。
 


チェン・ユーシュン監督のラブファンタジーをリメーク

「1秒先の彼女」は、何をするにも人より早いせっかちな郵便局員と、必ず遅れるのんびりのバス運転手が、時間の止まった1日に起きる出来事を描くファンタジーでラブコメディー。「リメークを」と持ちかけられてから作品を見た。
 
「自分が作るという前提だったので、ラストはカタルシスがあってグッときたけど、意外とややこしいぞと思ったんですよ」。仕掛けに満ちた物語と映像は、「ラブゴーゴー」(1998年)、「熱帯魚」(97年)のチェン監督らしい楽しい仕掛けがいっぱい。「無邪気な遊び心と物語が絶妙のバランスで成立している。チェン監督だからできる不思議な話だった。マネしてもアラが出るだろうと」


 「1秒先の彼」©2023「1秒先の彼」製作委員会

真面目とおとぼけ バランスとりつつ

「日本でファンタジーが似合うのは京都」と場所はすんなり決まったものの、脚本は難航。プロデューサーから男女反転のアイデアが出て、岡田将生を起用することで隘路(あいろ)を抜けた。
 
日本版は、せっかち郵便局員の皇一を岡田が演じ、のんびり大学生、長宗我部麗華を清原果耶という配役。「岡田くんが郵便局員で、ここは俺の居場所じゃないってもんもんとしてるような主人公だったらいけるかもと」。岡田は山下監督の「天然コケッコー」(2007年)に出演して以来。当時はデビューしたばかりだったが、今や大活躍。宮藤の言う岡田の「ヒロイン力」のおかげで「台湾版の主人公とあまり変わってないかな」。
 
清原は硬い役柄が多かったが、「まともじゃないのは君も一緒」(21年)でのコメディエンヌぶりに注目していた。「清原さんは真面目だが、だからこそコメディーが合う。フワフワしておらず、そのまま撮ったらシリアスになりがち。といってくだけすぎると魅力が失われてしまう」。そのバランスを模索しながら「柔らかく見えるように撮りました」。


オリジナル維持しつつ、新鮮さも

前半に郵便局員から見た物語を、後半は学生の視点から語り直す2部構成や、エピソードの多くは台湾版と同じ。リメークでもあり宮藤の脚本でもあり、演出は手探りの滑り出しだった。「宮藤さんらしい脚本で、面白さやテンポをちゃんとやらなきゃと、変な使命感もあって。後半になって、ペースがつかめてきた」。ちなみに主人公2人の名前も、クドカンらしい伏線である。
 
「結局はキャラクラーを作ればいいのかなと。といって、理詰めでもだめ。どっか遊ばないと。地に足を着けたまま、一方で離れつつ」。出来上がった映画は、山下監督らしいオフビートな笑いと登場人物への優しいまなざしで、オリジナルとはまた違った魅力をたたえている。実はラストに迷った。「オリジナルのままか、新しくするか。いい結末と思いますが、見た人がどう感じるか知りたいです」


 

5年ぶり新作に「初監督みたい」

大阪芸大の卒業制作だった「どんてん生活」が1999年に劇場公開されて監督デビュー。その後も毎年のように長編映画が劇場公開されてきた。それが、新作の準備中にコロナ禍に突入。撮影は延期が重なり、その間はテレビや配信のドラマ、短編を手がけていた。「1秒先の彼」は5年ぶりの公開作だ。「長く空いたし、宮藤さんの脚本もリメークも初めて。仕切り直す感じで、初監督のような気分でした。どうやったっけなと思いながら」
 
自粛期間中に、自身の作品を振り返る文章も書いたという。「映画のほかにもCMやPVもあって、休む暇がなかった。何もできない状態になったら、本当に何もすることがない。撮影延期とか企画が流れたってことは、聞いたことはあっても経験してなくて。こうして撮れなくなるのかな、フェードアウトしてくのかと。過去作の文章書くより、撮ってる時は100倍楽しい」 



「無理してでも撮りたい」

コロナ禍が落ち着いて、止まっていた撮影は一気に動き、現在は2本の新作の仕上げ中だ。「『やりたいテーマは』と言われると困るんですよ。自分の映画はゼロから作るというより、いろんな人のかけ算。何を撮りたいかと同じぐらい『誰と』が重要なんです」。「1秒先の彼」も「チェン監督、宮藤さんとのコラボ。出演も加藤雅也さんや羽野晶紀さんら、初めての方と組んだ。自分はそこでずっと来てるんじゃないかな」
 
40代も半ばを超え、活躍は続く。「40歳ぐらいまで、ずっと新人だっていう気分があった。でも気付くと現場に若い子が増えて、監督としてのあり方も年相応になってきたかな。年取ってくると体力の衰えもあるし、本数も減っていくでしょう。今は無理してでも撮りたい」

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

三浦研吾

毎日新聞写真部カメラマン

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