「地面師たち」の大根仁監督

「地面師たち」の大根仁監督勝田友巳撮影

2024.7.31

「地面師たち」詐欺集団もサラリーマンも内幕リアルに 〝裏道歩く〟大根仁監督

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勝田友巳

勝田友巳

映画なら「モテキ」「バクマン。」、ドラマでは「いだてん 東京オリムピック噺」「エルピス 希望、あるいは災い」……。ヒット作を連発する大根仁監督が、配信ドラマに初登場。Netflixの「地面師たち」は「企業もの+犯罪ドラマ」だ。

2019年に発行された新庄耕の同名小説を原作に、「地面師」と呼ばれる土地取引詐欺師グループの暗躍を描く。「地面師」は、17年に発覚した積水ハウスの巨額詐欺事件を契機に広く知られるようになり、小説もこの事件を下敷きにしている。大根監督は事件の舞台となった土地を知っていたという。「自転車で仕事場に向かう途中にあって、事件には関心を持っていた」と話す。

地価100億円の大型詐欺

ハリソン山中(豊川悦司)率いる地面師グループが、大手デベロッパーの石洋ハウスに東京・高輪にある寺の駐車場の土地を巡る虚偽の売買取引を持ちかけ、100億円をだまし取ろうとする。地面師グループでは、交渉役の辻本(綾野剛)、情報を集める図面師・竹下(北村一輝)、偽造担当のニンベン師・長井(染谷将太)、ニセ地主役を用意する手配師・麗子(小池栄子)らが細かく分担を分けて準備を進めてゆく。

デフォルメはしてもできるだけウソのない描写を目指し、原作に加え、事件の報告書なども参照しながら脚本を書いた。多くの人に話も聞いた。「不動産関係者、警察、司法書士、弁護士……、〝監修〟の数がえげつなかった」と笑う。土地の売買契約を結ぶ場面、慎重な司法書士に対して企業側が契約を急がせる場面で、司法書士が「ぼくにもプライドがある」と色をなして反論するセリフがある。脚本にはなかったという。土地取引で最終的に相手の真偽を判断するのは司法書士で「監修の方が『ここで一矢報いたい』というようなことをおっしゃって」。アイデアを取り入れた。

派閥抗争も生々しく

犯罪ドラマの一方で、企業の内幕ものでもある。石洋ハウスの開発事業部長、青柳(山本耕史)は、社内の派閥争いで先んじるため大型案件を血眼で探している。地面師が仕掛けた架空の土地取引に飛びつき、慎重な手続きを求める周囲を振り切って、暴走気味に契約を急ぐ。社内稟議(りんぎ)を通すための根回しや役員会での反対派閥との駆け引きなど、組織内の力学関係が生々しい。

「デベロッパーにとって土地は奪い合い。東京など、ちょっとでも空いてる土地があったら他社に取られる前に行けという強迫観念や、地主の機嫌を損ねたくないという心理も働く」。サラリーマンなら異業種でもヒヤヒヤするのではないか。「企業ものは今までやったことがなかったので。伊丹十三監督の映画みたいな職業ものは、面白いですよね」

深夜から映画、大河ドラマへ

大根監督は、制作会社のディレクターとしてテレビの深夜番組などを数多く手がけ、自身が担当したドラマを映画化した「モテキ」で初監督。その後は「愛の渦」(13年)、「バクマン。」(15年)など映画が続いたものの、「SUNNY 強い気持ち・強い愛」(18年)の後は間が空いている。

「30代はテレ東を中心に深夜ドラマを手がけて、ある程度好きなことができるようになった。『モテキ』を映画にという話が来て、40代はほぼ映画。50歳の手前で『好きでやりたい仕事は一通りやった』という感じがあったし、自分が一番喜ぶような仕事はちょっと一休みという直感もあった」。日本映画界が〝10億円以上のヒットかそれ以外〟に両極化する中で、「居心地の悪さ」を感じてもいたという。

「自分は作家性の強いタイプではないし、受け仕事を職人的にやってみたい、自分発信ではないものをやってみたいというタイミングだった。そこに『いだてん』や『共演NG』『エルピス』のオファーがあった」。「エルピス」が22年度ギャラクシー賞テレビ部門大賞に選ばれるなど、評価も得た。「そうこうしながらネタ探しもしていて。 その一つが『地面師たち』だったんです」

ところが「地面師たち」は映画会社もテレビ局も難色を示し、自らNetflixに持ち込んだところ「こういう企画を探していた。どストライク」。撮影では、日本のテレビドラマとの環境の違いを実感した。象徴的だったのが、カメラテストだった。「テレビや映画では、スタッフと映像のルックやスタイルのイメージを共有することが目的ですが、Netflixでは本国のクオリティーチェックのために行う。最低限このぐらいで撮れという基準がまずあって、何を話すにせよ、まずクオリティー重視。脚本にないけれどプラスしたいというリクエストも受け入れてもらったし、お金や時間がないからと諦めたことはあまりなかった」

配信でしかできない題材が

「エルピス」「地面師たち」と社会的題材が続いたが「たまたま」。狙いはあくまでエンタメ。「台本だけ読めば社会派ドラマのようだけれど、実際の出来事に振り回されたくない。といって被害者もいることなので、気は使いつつ、ポップなものにしたい」

配信ドラマの可能性と手応えを感じたようで「もうちょっとやってみたい。ここでしかできないだろうというものが二、三、思い浮かんでいます。予算や時間より題材的に。タブーを撮りたいわけでは全然ないんですけどね」。自身は王道でも主流でもないと位置づける。「テレビでも映画でも、大通りを歩いたことはなくて、裏道というかオルタナティブ。そうあるべきだと思っています」

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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