ロンドンの地下鉄駅で見かけた広告。米英のアカデミー賞受賞結果が大きく目に映る=川原井利奈撮影

ロンドンの地下鉄駅で見かけた広告。米英のアカデミー賞受賞結果が大きく目に映る=川原井利奈撮影

2024.4.23

横着? 大胆? 英国の映画宣伝 チラシもパンフも存在せず 巨大広告でアピール

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

ひとしねま

川原井利奈

日本で配給会社に勤めていたこともあって、日英の映画宣伝の違いが興味深い。日本では1本の映画が公開されるまでに、日本版のポスターや予告編、チラシ、パンフレットを制作する。言いかえれば全て日本オリジナルのものを用意するということだ。それに加えて、新聞、雑誌、ウェブメディアに対して映画評の掲載を働きかけ、監督や俳優が来日してくれればインタビューをセッテイングする。これを半年前後の時間をかけて行う。キャッチコピーを考えたり、あらすじやイントロダクションをまとめたりするのも、基本的に日本独自の仕事である。

さて、ロンドンではどうかといえば、まずチラシ、パンフレットはこの国に存在しない。ポスターや予告編はオリジナルで作られることもあるが、これも配給会社次第で必ずしも全て英国版だとは限らない。ポスターのキャッチコピーも、あったりなかったり。


ポスターがしわくちゃに貼られても何のその。落書きも避けられず=川原井利奈撮影

英語圏ならでは 情報は世界標準

雑誌文化はあってないようなものだ。本屋に雑誌コーナーはなく、雑誌を見つけられるのはスーパーマーケットの一角か、駅近くのコーヒースタンドのような場所、もしくはこちらのコンビニと言われるオフライセンスの一部のみだ。しかもそれらもカルチャー雑誌というより、ビジュアル重視のファッション誌やゴシップ誌に近い(それゆえに日本の雑誌は世界的に有名である、というのはまた別の話)。それでは見たい映画の公開情報も、前評価も手に入らないではないか。

しかし個人的にこの国で生活していて感じるのは、英語を使えれば世界中の情報が手に入るということだ。アメリカ発の映画ならば、遅くても本国の公開から3カ月前後でロンドンで鑑賞できる。その3カ月の間にアメリカ版のトレーラーが流れ、オープニング成績などの情報が入ってくる。頭の片隅に置いたタイトルが、公開の直前直後に街中やソーシャルメディアで目に入ってきたら、映画館に行く動機に十分なるのだろう。

映画雑誌と言えるのは、BFI(英国映画協会)が発行する「サイト・アンド・サウンド」、紙を発行しているロンドンベースの映画媒体「リトル・ホワイト・ライズ」ぐらいか。いずれも基本的に定期購読で、BFIのギフトショップを除き店舗で見かけることはない。大手日刊紙「ガーディアン」など新聞の映画評もあるが、日本よりさらにオンライン化が進んでいるロンドンでは、なんでもウェブ上で読めてしまう。さらに、英語圏ゆえ「インディーワイヤー」「バラエティ」などアメリカの映画サイトで事足りてしまうのも事実だろう。

オリジナルの宣伝に力入れず

上述した通りハリウッド大作なら、アメリカでの公開時期に合わせてできたアメリカの予告編が、そのままロンドンで長い期間流れることはよくある。全米俳優組合のストライキの影響で「デューン 砂の惑星PART2」の公開が延期になった際も、予告編は特に取り下げられることなく、流れ続けていた。

日本に比べて、総じてイギリスでの公開に連動したものが少ない。実際にロンドンで公開日を確認する方法は、映画館のホームページ(HP)が大半であるし、作品自体のHPはめったに見かけない。見かけたとしても分かるのは公開情報のみである。

映画館を運営する会社の自社配給作品なら映画館のHPに情報がきちんと載っているが、それ以外の作品だと公開週になってから公開を知ることも度々である。「どうやって、見たい映画を見つけるの」とロンドンの友人に聞いたことがあるが、難しいことでもなんでもなさそうに「見に行きたいやつに行くだけだよ」と一蹴された。

その代わりに、街中の紙広告は日本より頻繁に見るように思える。電車、バス、ビルボード広告などサイズ感も日本より大きく、かなりの迫力だ。そして、いかにもイギリス人らしいと思うのだが、上映が終わっている作品の広告もよく見かける。クリスマス映画の広告が、年が明けても目に入ってきたものだ。しかし「気になったものを見に行く」、その感覚があるからこそ、街中で自然に目に入る広告が大事だと言えよう。

言語の壁がない分、若者間ではソーシャルメディアの影響力がより強いのだろう。作品名を検索すれば米国の映画データベースサイト、imdbが公開日まで教えてくれる。ネット上の大手映画サイト「Letterboxd」を開けば、世界中の映画情報を英語で教えてくれる。

情報量少ないポスター

イギリスでオリジナルに作っているものとして、ポスターの話をしよう。日本で度々話題になる「日本版ポスターは情報量が多い」問題であるが、比べると確かに、イギリスのポスターは情報量が少ない。前述したように、キャッチコピーが載っていることは少ないし、映画評の抜粋を見かけるぐらいだろう。

タイトル、監督名だけで人物の顔もないという非常に強気なポスターもある(数種類のポスター展開をしているのが前提だが、「デューン 砂の惑星PART2」もそれに当てはまるだろう)し、暗すぎてなんだかよく分からないこともある。また大アップの顔しか載っておらず、「この俳優が出ているのだ」ということしか認識できないこともある。前述の通り、屋外広告は非常に大きく、また立ち止まって長い間目を留めるものでもないから、インパクト重視の結果だろうか。

そのせいか、日本映画やアジア映画は、俳優の顔も監督の名前も知られてないためにイラストレーションが使われる傾向にある。最近では、是枝裕和監督の「怪物」、深田晃司監督の「LOVE LIFE」はイラストポスターだった。

映画館の会員制度も、新作のリリース情報を逃さない一つの方法であり、映画ファンを定期的に映画館へ足を運ばせる仕組みになっている。そして、監督や俳優が登壇してのQ&A、新作リリースに合わせた過去作上映(フィルムであることも度々)が定期的に行われるのも、宣伝の大きな部分を担っているだろう。

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ライター
ひとしねま

川原井利奈

かわらい・りな ライター。映画配給会社勤務を経て、現在はロンドン在住。

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  • ロンドンの地下鉄駅で見かけた広告。米英のアカデミー賞受賞結果が大きく目に映る=川原井利奈撮影
  • 英国版の「怪物」ポスター。イラストが使われている
  • ポスターがしわくちゃに貼られても何のその。落書きも避けられず
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