第73回ベルリン国際映画祭の記者会見に臨む(左から)川村元気プロデューサー、新海誠監督、原菜乃華=勝田友巳撮影

第73回ベルリン国際映画祭の記者会見に臨む(左から)川村元気プロデューサー、新海誠監督、原菜乃華=勝田友巳撮影

2023.2.25

新海誠監督ベルリンで訴え「エンタメの中で東日本大震災を知って」 「すずめの戸締まり」ベルリン国際映画祭で上映

第73回 ベルリン国際映画祭をひとシネマ編集長勝田友巳が現地からお伝え!

勝田友巳

勝田友巳

ドイツで開催中の第73回ベルリン国際映画祭で23日、日本のアニメ「すずめの戸締まり」がコンペティション部門で公式上映された。新海誠監督、主人公・鈴芽(すずめ)の声を担当した原菜乃華、川村元気プロデューサーが現地入り。新海監督はベルリンに集まったジャーナリストや観客に「エンタメの中に、東日本大震災の記憶を描いた。日本人の心に残っていることを知ってほしい」と訴えた。
 
新海監督は「君の名は。」「天気の子」などが欧州で公開され、知名度は高い。記者会見に集まった記者にも新海ファンがいて、歓迎ムード一色。新海監督は、「すずめの戸締まり」の背景にある、震災について繰り返し強調した。
 
「現代日本の風景として、災害や人口減少で増えている廃虚が思い浮かんだ。主人公の冒険の旅の最後にたどり着くべきなのは、12年前に起きた東日本大震災の土地。その物語を、エンタメとして作りたかった」と強調した。
 

新海監督の〝入り待ち〟も

日本アニメはベルリンにもすっかり定着した感があり、〝入り待ち〟をしてサインや記念撮影を求める現地ファンも見かけられた。2002年、宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」がベルリンに出品され金熊賞を受賞して以来、アニメ作品が3大映画祭のコンペ入りすることも珍しくなくなった。
 
新海監督は宮崎監督の「自分がアニメを作り始めたころで、ニュースを覚えている。日本のアニメが遠くまで届くと教えられ、21年たった今、自分がここにいることが信じられない」と感慨深げ。
 
アニメの可能性については「アニメは幅の広い観客に届く。4、5歳から70、80代まで、観客はエンターテインメントを求めて劇場に足を運び、同じ劇場で見てくれる。『すずめの戸締まり』のような娯楽映画で、震災を扱うことに意味がある。実写で震災を描く映画と宣伝したら、小さい子は来なかっただろうし、震災を知る機会もなかった。でもアニメなら、そういう観客まで届くと思っています」。
 

公式上映に笑いと涙

公式上映は午後4時前、映画祭主会場のベルリナーレ・パラストで行われた。レッドカーペットに登場した新海監督と原菜乃華、川村元気プロデューサーは、集まった現地のファンのサインの求めに応じ、記念撮影に納まりながら会場入り。
 
会場は満席。上映中には多くの笑い声が聞こえ、終盤では涙ぐむ観客の姿も。上映後に壇上であいさつした新海監督は映画の中の風景が、震災後の日本に実際にあることを説明し「今でも故郷に帰れない人がたくさんいることを、エンターテインメントとして楽しみながら知ってほしいと思って、ここに来ました」と語りかけた。

 

「夢のような体験」原菜乃華

上映後に新海監督と原は「楽しかった。夢のよう」と口をそろえた。新海監督の作品はこれまでも欧州で公開されて、ファンを増やしている。それでもベルリンでの上映について新海監督は「特別の体験」という。
 
「世界中の何千本もの映画からコンペに選ばれた、19本のうちの1本。アニメとか実写とか関係なく、文化的営みとして見られていることを実感した。これまで以上に映画と真剣に向き合い、時代性と娯楽性と、芸術性を持った、誰にとっても新しい、予想ができない映画を作らなければいけないと思っています」。授賞式は25日に行われる。
 

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。