「死刑にいたる病」©2022 映画「死刑にいたる病」製作委員会

「死刑にいたる病」©2022 映画「死刑にいたる病」製作委員会

2022.6.23

配給、宣伝担当が語る「死刑にいたる病」興収10億円突破のワケ 「怖い!」を超えて「見たい!」にした

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SYO

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5月6日に劇場公開された「死刑にいたる病」が、好調だ。同時期に封切られた話題作の数々としのぎを削り、6月21日付で興行収入10億円を突破。ディープな映画ファンはもとより、若者層を大量に動員している。ひとシネマでは、ヒットの仕掛人である企画・プロデュースの深瀬和美さん、宣伝プロデューサーの木村範子さんに取材を敢行。試行錯誤の連続だったというSNS戦略などについて、じっくりと語っていただいた。

 

初号を見たスタッフの意外な反応

――まずは「死刑にいたる病」興収10億円突破、おめでとうございます。クロックワークスさんが製作幹事・配給を務める邦画実写映画作品では、歴代トップになったそうですね。
 
深瀬 そうなんです。これまでに共同配給した「少林サッカー」や「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」はありましたが、ウチが企画して作った映画では、初の大台です。現時点だと、2022年公開の実写作品で10億円突破は邦洋あわせて10本。そのうちの1本に入れるとは思っていませんでした。
 
――その理由を深瀬さん、木村さんと解き明かしていければなと。宣伝の立ち上げは、2021年の8月ごろとうかがいました。
 
木村 そのくらいですね。原作を出版した早川書房さんの「ハヤカワ文庫100冊フェア」で「映画化決定!」を解禁したいという話になって、そのタイミングで立ち上げて。ただ本格的に動き出したのは、21年11月末の初号試写(作品の完成後、関係者のみを招待して行う最初の試写会)くらいからです。
 
深瀬 その間は、原作の持つキャッチーさをどう映画として売っていくかを考えていました。「24件の事件を起こした連続殺人鬼からの依頼は、たった1件の冤罪(えんざい)証明」を押し出そうとしていたのですが、初号を見た若いスタッフや周囲が「犯人は誰か」よりも、とにかく「怖い」だったんです。「え、ホラー映画?」っていうくらい「怖い」「緊張しすぎて疲れた」という声があまりにも多くて(笑い)。
 
作っているときは正直そこまで「怖い」と言われるとは思っていなかったから驚きましたし、そっちを押し出していったほうが面白いんじゃないかという話になりました。だから、最初に宣伝のコンセプトやプランを決めて突っ走っていったというより、いちいち立ち止まって木村とふたりで相談しながら進んでいった感覚です。
 
それができたのは、やっぱりSNS含めたインターネットの宣伝だから。紙媒体や予告編、テレビスポット等々、これまでは考えてから出すまでに時間がかかるものが多かったんですよね。方向転換がしにくかったけど、いまは周囲や世間の「こういう反応があった」をフレキシブルに取り入れられる。もちろんそこには、ウチが小さい会社というのもあるのですが、かじ取りがしやすいとは感じます。


 

TikTok再生、あっという間に200万回

――22年1月6日に解禁された特報の反響、すさまじかったですね。
 
木村 弊社の「決戦は日曜日」の公開合わせで、劇場で流してもらったんです。YouTubeなどでも再生回数を見ながら「なんだかスゴく見られてるな」と感じました。
 
深瀬 YouTube以上にスゴかったのは、TikTok。あっという間に200万回再生くらいいって驚きました。私自身、そのときはまだTikTokを使っていなかったから、急いでダウンロードして(笑い)。「阿部サダヲさんの目が怖い」などの大量のコメントを読んで「こういうのが引っかかるんだな」と勉強になりました。
 
――各映画会社さんももちろん僕自身も、まだなかなかTikTokをどう有効活用していくか方法論を見つけ切れていないと思うんです。本作はモデルケースになるなと感じていましたが、アプリをダウンロードするところからだったのですね(笑い)。
 
深瀬 実はそうなんです(笑い)。もちろんSNSの運用は(宣伝会社の)ガイエさんと一緒にやっているので向こうは私よりもずっとわかってはいると思うのですが、やっぱりリアルで使っている世代ではないんですよね。メインのユーザーは中高生から20代半ばくらいまでとうかがったので、リアルタイムの世代ではないぶん新鮮かつ手探りでした。
 

ターゲット層の特徴を細かく分析

――そもそも、本作のターゲティングにいまお話しいただいたような10~20代はメイン層で想定されていたのでしょうか。
 
木村 はい。PG12(12歳未満は保護者の助言や指導が必要)だったので、高校生や大学生はターゲティングしていました。映画ファンはもちろんがっつり来てほしいけれど、ヒットさせるためにはそれ以上が必要。他作品の事例を調べて、コロナ禍に入ってシニア層が落ち込んだぶん、やっぱり若い層が来てくれないとヒットしないということもわかっていましたし、マーケティング会社と共にかなり細かく分析しました。年齢や仕事だけではなく、「何に興味を持つのか」「どういったものが好きなのか」を調べて、宣伝に生かしていきましたね。
 
その中のひとつが、謎解き要素を入れたユーザー参加型の「面会配信」動画です。阿部さん演じる榛村が謎を出題するものなのですが、それ単体で見ても面白いし、二転三転する原作とも相性がいい。


 

投稿動画自体を面白く

――TikTokの動画投稿も、相当多いですよね。
 
深瀬 多かったですね。反応がいいから、どんどん楽しくなっちゃって(笑い)。「こういうのがいいんだね」とか「この時間に上げるといいんだね」を一つひとつ研究しながら、理由を探っていきました。
 
木村 センスが磨かれて、サムネイルの作り方がどんどん上達していくという(笑い)。
 
深瀬 そうそう(笑い)。SNSによって、反応が良いものが全く違うんです。TwitterやInstagramはキャストの方がコメントしているものがすごく跳ねるけど、TikTokはそうじゃない。面白い動画を作って上げている方がたくさんいるから、著名人が出ているかじゃなく、動画自体が面白くないと駄目なんですよね。
 
だったら予告編もしかりで、動画を作るプロが本気で面白おかしく作ったものをぶつけていく必要がある。初号の反応であった「怖い」を忘れずに、キャスト売りではない動画としての面白さを追求する、という意識で作っていきました。
 
――メディアに合わせた動画製作、非常に効いていたと思います。個人的にシビれたのは、「キャストコメント入り予告編」。阿部サダヲさん、岡田健史さん、岩田剛典さんが「スキップしないで!」とお願いするのが面白くて(笑い)。
 


 
深瀬 ありがとうございます(笑い)。「スクロールしないで!」は見たことがあって、それはTwitter用に撮っていたんです。私自身、YouTubeの6秒広告(動画再生時に挿入される6秒間の広告。有料会員にならないとスキップできない)をじっと見ているときが多いので、そこでいきなり全くテンションが違うものが出てきたらびっくりするんじゃないかと思って(この動画では、3秒間は作品の予告が流れ、その直後にいきなりキャストが登場して「スキップしないで」と呼びかける)。
 
でも、考え付いただけではなかなか実現までにはいけないんです。「面会配信」もそうですが、こうやって動画をたくさん作ることができたのは、キャストの皆さんがとにかくポジティブに協力してくれたから。
 
木村 面会配信なんて、本編の撮影が終わってから阿部さんにもう一度榛村を演じていただいていますからね。すごくありがたかったです。
 
深瀬 本当にそう。かつ、今回の座組が製作委員会方式でも少数体制だったことも功を奏したと思います。私と木村は会社の席が隣なので打ち合わせが簡単にできたし、クロックワークス・東北新社・テレビ東京の3社体制だったからフットワークも軽く、意思決定から実行までがスムーズにできました。それもあって、立ち止まって方向転換が可能になったんです。


ホラーだけどエンタメ

――非常に興味深いお話です。「怖さ売り」のお話ももう少しうかがいたいのですが、やり方によっては「怖いから見ない」にもなるリスキーな選択だと思うんです。どのようにしてバランスを整えていったのでしょう?
 
木村 グロは絶対に見せなかったですね。「爪をはぐ」なんてもってのほかで(笑い)。公開直前に少し緩めましたが、そこは気を付けていました。
 
深瀬 「怖いもの見たさ」という言葉があるとおり「怖さ」は魅力ですが、それだけではダメ。心理としては「怖い思いを乗り越えてでも見たいものがある」なんですよね。じゃあそれは何なのか?は常にキーワードとして意識していました。「怖いけど犯人が知りたい」「怖いけど友だちと共有体験したい」等々、「けど何なのか?」は木村とも頻繁に話しましたね。
 
あとは、エンターテインメントであることを忘れない。洋画のホラーだと現実から遠いものも多いので、そういう世界として楽しめる。一方邦画だと、下手するとリアルになりすぎてしまう。エンターテインメントとして怖い思いができる、というのはちゃんと出していきたいなと考えていました。実録ものを多く撮っていた白石和彌監督の新たなる挑戦でもありますし。
 
そのうえで分かりやすい部分でいうと、榛村を「キャラクター」として売っていくということです。
 
――なるほど! だから「ルーティン動画」なども出せるし。
 
深瀬 そうそう。キャラクターとして扱うことで動画も作りやすくなるし、遊べるようになったんです。リアルに見せていくのではなく、映画館でしか会えないキャラクターとして育てていく。
 
これも、特報を見た方からのコメントで「目が怖すぎる」「マルモどうした(テレビドラマ『マルモのおきて』で阿部サダヲが演じたキャラクター)」みたいなものがたくさんあって、「みんな面白がってるな」と思えたことが大きいです。


 

5月の激戦区でヒット街道突っ走る

――「死刑にいたる病」は公開後、1週間で興収2.7億円を記録し、2週目でも前週比約80%と数字の落ちが少なかったですよね。まさにヒット街道を突っ走る結果となりました。
 
木村 我々は初週にいかにお客さんを連れてくるかが課題ですから、その先はひとえに作品の力だと思います。
 
深瀬 公開の日取りの良さも味方しましたね。正直、5月6日の公開というのはあんまりうまみがないんです。ゴールデンウイークも終わってしまい、連休の恩恵を受けられないわけですから。「連休は遊んだから、この週末くらいゆっくりしたい」といったモードになるタイミングの公開でいいんだろうか、という意見もありましたが、営業が他作品の動向も調べてとにかく考え抜いてくれました。
 
――今年の5月は話題作・大作ラッシュで、13日は「シン・ウルトラマン」や「流浪の月」、20日は「ハケンアニメ!」「鋼の錬金術師」、27日は「トップガン マーヴェリック」などが封切られました。
 
深瀬 そういったなかで、スタートダッシュがうまく切れれば2週目、3週目以降もスクリーン数を減らされずにいける、と計算した営業部の読みが本当にうまくハマりました。昨今の映画興行は、作品の力ももちろんですが「周囲の状況」に左右されやすい。月に1本映画を見るかどうかの方が増えているなかで、作品力と周囲の環境が見事に一致してくれました。
 
――公開後、一般の方が考察合戦を繰り広げたり、ムーブメントになっていったのも興味深いです。
 
深瀬 ラストシーンをどうするかは、脚本を作るときに高田亮さんと白石監督と何度も考えました。原作とはまた違った表現になっていますが、「ふわっと終わるよりスパッと終わりたい、今回はエンタメ寄りのジャンル映画にしましょう」と話しましたね。公開後、予想以上にみんなが盛り上がってくれました。


 

まさか「爪をはぐ」映画が……

――リピーターも増えるし、グループで来ている方も多いと聞きました。
 
深瀬 映画館の席の埋まり方を見ていると、真ん中からふたりずつとかで席がとられているんですよね。ふたり以上で来てくださっている方が多い印象です。昨日、たまたま映画館で鑑賞後のお客さんに出くわしたのですが、みんなが「あれはどういうことだろう」とスマホで調べたり、原作との違いを話していたりしていて。原作も発行部数20万部を突破したので、相乗効果もあるように思います。
 
木村 若い方がたくさん来てくれているのは本当にうれしいです。先ほどの話にも通じますが、コロナ禍でベースメントが落ちているなか、若い方を取り込めるかは生命線。ホラーは若い方との相性もいいですし。「犬鳴村」が20年2月に公開されたとき、コロナ禍に入ったばかりにもかかわらず若い方がたくさん劇場に足を運んでいたんですよね。その現象が強く印象に残っています。
 
深瀬 かつ、ジャンル映画の強さ。いろいろな劇場に話をうかがうと、コロナ禍に入ってもジャンル映画の人気は衰えなかったと。映画ファンの中でも「絶対に劇場で見たい」という強い意志を持った方が多いのが、ジャンル映画だった。コロナ禍に入り、白石監督はミニシアター支援でさまざまな劇場の方の話を聞いていたので、そういったところも反映されたんじゃないかなと思います。
 
いやしかし、まさか爪をはぐ映画が10億円いくとは……(笑い)。はじめからその数字を狙っていたら、やっぱりそういったシーンは入れられなかった気がします。エンタメ寄りのジャンル映画を追求していたからこそ、しっかり入れ込んだという部分もありますし。ほかの映画会社さんからも「希望です」と言っていただけています(笑い)。
 
別にグロを押しているわけではないんですよ(笑い)。実際、シーンとしては2、3カ所しかないですし。ただ、コンプライアンスが厳しくなる中で映画の表現の自由さを感じられる希望になった、という意見はうれしいです。あと、最初に爪をはぐという予想外のシーンがあったことで、お客さんが一気に緊張状態に入ったという効果もあると思っていて。
 
――ああ、なるほど。「この映画、ここまでやるのか!」となるというか。
 
深瀬 はい。グロいシーンは少ないけど、冒頭にしっかり入っていることで「何が起きるかわからない」となる。お客さんも、こういうメジャーな方々が出ている映画でそこまで見せるとは思っていないはず。だからこそびっくりして、その後に過激なシーンがなくても「いつまたああいうシーンがあるかわからない」と緊張感が途切れない。そういったうまさもしっかり入っているんですよね。

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ライター
SYO

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1987年福井県生まれ。東京学芸大学にて映像・演劇表現を学んだのち、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て2020年に独立。 映画・アニメ、ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トークイベント、映画情報番組への出演も行う。

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