「孤狼の血 LEVEL2」 

「孤狼の血 LEVEL2」 ©︎2021「孤狼の血 LEVEL2」製作委員会

2021.8.26

この1本:「孤狼の血 LEVEL2」 バブルの世で貫く信念

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

持ちつ持たれつのヤクザと警察、その均衡が崩れて暴力が噴出する――。下敷きは、深作欣二監督の「県警対組織暴力」だろう。随所にオマージュがささげられ、東映実録映画の血気を再燃させようという勢いである。2018年の「孤狼の血」の続編でも「2」ではなく「LEVEL2」。前作を上回ると宣言したところが挑発的で頼もしい。

呉原東署の先輩刑事大上の後を継ぎ、日岡(松坂桃李)は仁正会と尾谷組の抗争を抑え込んでいた。しかし仁正会傘下の上林(鈴木亮平)が出所し、謀殺された五十子会長のカタキを討つと暴走する。

日岡は見せかけの秩序を維持するために、灰色の領域で立ち回る。一方の上林は、冷酷残虐で執拗(しつよう)な悪の権化だ。2人の間に、日岡排除をもくろむ仁正会幹部や県警上層部の陰謀が絡み、日岡を慕うチンピラのチンタ(村上虹郎)の純情と悲哀がある。日岡の相棒となった元公安刑事瀬島(中村梅雀)とのかけあいも絶妙だ。柚月裕子の原作の設定を基にした、池上純哉のオリジナル脚本がまず上々だ。

白石和彌監督も切れ味が良い。凄惨(せいさん)な暴力描写できれい事を排し、在日差別や貧困などの背景をひるまず盛り込む。派手なカーチェイスや血まみれの死闘など、見せ場もふんだんだ。

「県警対組織暴力」の舞台は敗戦から18年後。菅原文太が演じた刑事久能は「天皇陛下から赤ん坊まで、闇米食ろうて生きとった」という時代を生きた。こちらは昭和から平成に移り、暴力団対策法施行直前でバブル経済のただ中。久能の土性骨と比べれば、日岡の線の細さは否めない。

しかし、拝金主義と自己中心的価値観がはびこる現代、正義は揺らぎ善悪の境界はうやむやだ。信念に殉じる点で、日岡も上林も同類かもしれぬ。LEVEL3では暴対法施行後、混迷の時代を描いてほしい。2時間19分。東京・丸の内TOEI、大阪・梅田ブルク7ほかで公開中。(勝)

ここに注目

白石監督は、俳優を生き生きと演じさせるすべを山ほど持っていると常々思ってきた。本作はその最たるものだ。鈴木亮平はもとより村上虹郎や中村梅雀らキーとなる人物を演じる役者が、これでもかというほど躍動している。他の役者も同様だ。役者の気概は明らかに映像に映り込む。役者は最高の演技を創ろうともがく。白石監督は美術の今村力らスタッフとともにそれを受け止めるだけでなく、時に解放させ新たなステージを生み出す。そのバトルがつまらないはずはない。白石作品への出演を望む俳優は絶えない。快進撃は続く。(鈴)

技あり

映画1本目の加藤航平撮影監督は、過去の任俠(にんきょう)映画で勉強して臨んだ。いいところはある。デパートの屋上、日岡がチンタから情報を取る。周りをカメラは円形に動く。チンタが去り際に韓国パスポートの礼を言う場面は、画像構成を含めてうまく考えられている。また瀬島の家を訪れた日岡に、瀬島が「組織に爪痕を残したい」ので信じてくれと言う場面。背景のトビ気味の障子は、夕方の撮影か合成か。2人のバランスが取れるいっぱいまで寄るズームのうまさ。カメラを動かす技巧がある。大作は大変だったろうが、よくまとめた。(渡)

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