「ボーはおそれている」©2023 Mommy Knows Best LLC, UAAP LLC and IPR.VC Fund II KY. All Rights Reserved.

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2024.1.25

目利きがおすすめ ホラー&スリラー 2024年の必見新作8本

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

高橋諭治

高橋諭治

近年、お決まりの定型をはみ出したユニークな作品が次々と作られているスリラー&ホラー映画。2024年も多彩な新作が待機しているこのジャンルの注目作を、この春までに見られる作品を中心に紹介していこう。

スリラー編


カンヌで最高賞「落下の解剖学」(フランス) 2月23日

 
まずはスリラー編。フランス映画「落下の解剖学」(2月23日公開)は、人里離れた雪山の山荘で起こった中年男性の変死事件をめぐる物語だ。第1発見者は視覚障害を持つ11歳の息子ダニエル。通報者であるベストセラー作家の妻サンドラに殺人容疑がかけられる。
 
本作の見どころは、まさしく事件を〝解剖〟するかのごとく、検事、弁護士、被告、証人が法廷で繰り広げる具体的かつ生々しいやりとりだ。事故か殺人か、はたまた自殺か。その曖昧な死因をめぐって現場での状況が多様な角度から検証され、証拠として提出された音声などによって夫婦の驚くべき秘密が暴露されていく。これが長編4作目となるジュスティーヌ・トリエ監督が卓越した語り口で法廷サスペンスとヒューマンミステリーの要素を融合させ、「ありがとう、トニ・エルドマン」(16年)のサンドラ・ヒュラーが謎めいた主人公サンドラにふんして圧倒的な存在感を発揮。昨年のカンヌ国際映画祭でパルムドールに輝き、先のゴールデングローブ賞でも外国語映画賞、脚本賞を受賞した。
 

「12日の殺人」(フランス) 未解決事件追う刑事 3月15日

 
フランスからはもう1本、見逃し厳禁のスリラーがやってくる。「ハリー、見知らぬ友人」(00年)、「悪なき殺人」(19年)のドミニク・モル監督の新作「12日の殺人」(3月15日公開)だ。16年10月12日の夜、山間の町サン=ジャン=ド=モーリエンヌで地元の21歳の女性が何者かにガソリンを浴びせられ、翌朝、無残な焼死体となって発見された。グルノーブル署のヨアン率いる捜査チームは、生前の被害者と交際歴があった男たちに疑いの目を向けるが……。
 
ポーリーヌ・ゲナのノンフィクション小説に触発された本作の特色は、〝未解決事件〟を扱っていること。ゆえに名推理によって謎が解き明かされるカタルシスも、スペクタクルに満ちた捕り物シーンもない。刑事たちの聞き込みや張り込みといった地味な捜査シーンをリアリスティックに積み重ねたモル監督は、闇深き事件の真相にたどり着けない登場人物の焦燥と苦悩に焦点を当て、デビッド・フィンチャー監督の「ゾディアック」(06年)を彷彿(ほうふつ)とさせる濃密な心理スリラーに仕上げた。こちらはフランスのアカデミー賞たるセザール賞で作品賞、監督賞を含む6部門を受賞した。
 

「ビニールハウス」(韓国) 格差社会の闇象徴 3月15日



スリラーの量産国である韓国の作品では、「ビニールハウス」(3月15日公開)のインパクトがすさまじい。主人公は、農村地帯のビニールハウスで暮らす訪問介護士の中年女性ムンジョン。夫と離婚し、もうじき少年院から出てくるひとり息子と一緒に暮らすことを夢見る彼女が、仕事中に取り返しのつかない〝罪〟を犯したことをきっかけに、想像を絶する運命をたどっていく姿を映し出す。
 
高齢者の介護や認知症、貧困、孤独といった社会問題を織り交ぜながら、息もつかせぬサスペンスの連鎖を創出したのは新人の女性監督イ・ソルヒ。韓国で数々の主演女優賞を受賞したキム・ソヒョンの迫真の演技、格差社会の闇を象徴する〝黒いビニールハウス〟のイメージも圧巻の一作だ。
 

「ハンテッド 狩られる夜」(フランス)孤立無援、深夜のサバイバル 2月23日


 
フレンチホラーの鬼才アレクサンドル・アジャが製作、「P2」(07年)のフランク・カルフンが監督を務めた「ハンテッド 狩られる夜」(2月23日公開)は、真夜中のガソリンスタンドに舞台を限定したシチュエーションスリラー。正体不明のスナイパーの標的にされ、孤立無援の極限状況に陥った女性の絶望的なサバイバル劇が、激烈なバイオレンス描写とともに繰り広げられる。
 

「マンティコア 怪物」(スペイン) アンモラルな異色作 4月19日


「マンティコア 怪物」©︎Aquí y Allí Films, Bteam Prods, Magnética Cine, 34T Cinema y Punto

「マジカル・ガール」(14年)で鮮烈なデビューを飾ったスペインのカルロス・ベルムト監督が放つ「マンティコア 怪物」(4月19日公開)は、アンモラルなテーマをはらんだ異色作だ。隣人の少年を火事から救った内気な青年フリアン。ゲームデザイナーとして空想上のモンスターを創造する彼の内なる欲望が、衝撃的なストーリー展開で明らかにされていく。
 

「変な家」(日本) 人気動画の映画化 3月15日



そして日本映画では、再生回数1600万回超を記録したYouTubeの動画に基づく「変な家」(3月15日公開)が話題を呼びそうだ。ある家の〝間取り〟から次々と浮かび上がる違和感。その先に待ち受ける新たな謎、そして驚愕(きょうがく)の真実とは……。主人公のオカルト動画クリエーター、雨宮に間宮祥太朗、そのバディーとなる風変わりな設計士、栗原に佐藤二朗がふんし、「ミックス。」(17年)の石川淳一が監督を務める新感覚のミステリー映画だ。
 

ホラー編

「ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ」(米)ブラムハウス最大ヒット 2月9日



続いてホラー編。「ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ」(2月9日公開)は、「M3GAN/ミーガン」(22年)などの話題作を連打するブラムハウス・プロダクションの最新作だ。主人公はあどけない妹を養うために、廃虚化したピザレストランの夜間警備の職に就いた若者マイク。ところが店内にたたずむ不気味な機械仕掛けのマスコットたちが夜な夜な動き出して……。
 
弟が不可解な失踪を遂げた過去を引きずるマイクのトラウマ、かつてピザレストランで続発した子供の失踪事件のミステリー。これらの要素を盛り込みながら、同名ホラーゲームの特異な世界観を再現した本作は、すでに海外で爆発的な大ヒットを飛ばしており、ブラムハウス史上最高の世界興収を記録している。
 

「ボーはおそれている」(米) パラノイア的悪夢の巨大迷宮 2月16日



「ヘレディタリー 継承」(18年)、「ミッドサマー」(19年)で現代ホラー界の寵児(ちょうじ)となったアリ・アスター、待望の監督第3作「ボーはおそれている」(2月16日公開)も見逃せない。主人公のボーは、日常的に極度の不安症にさいなまれている中年男性。そんな彼が突然の母親の訃報に接し、アパートを出て実家をめざすのだが……。
 
「ナポレオン」(23年)も記憶に新しいホアキン・フェニックスを主演に迎え、見る者を現実と妄想の境目さえわからない奇怪な映像世界へと誘う179分の大長編。アスター監督の新境地というべき本作は、カフカ的な不条理劇であり、ブラックコメディー、ダークファンタジーの要素が色濃い。ゆえに純然たるホラーではないが、ボーの内なる恐怖を表出させたショック描写も随所にさく裂する。そのとてつもなく混沌(こんとん)としたパラノイア的な悪夢の巨大迷宮は、あらゆる観客に〝異次元〟の映画体験をもたらすだろう。

ライター
高橋諭治

高橋諭治

たかはし・ゆじ 純真な少年時代に恐怖映画を見すぎて、人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞「シネマの週末」、映画.com、劇場パンフレットなどに寄稿しながら、世界中の謎めいた映画、恐ろしい映画と日々格闘している。